この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

珠代&真朱

宵宮金魚姫-終-

雛/珠代 > 『私たち、金魚姫と人魚姫ね。』昨夜の甘い声が耳に反響する。結局夕方から軍に招集されてしまい本宮へ行くことは叶わなかったけれど、これでいいのだとも思う。もう一度珠希として振る舞える自信もなかったし、また顔を合わせてしまったら、今度こそ絆されて取り返しのつかないことをしてしまいそうだったから。 ーーふと、高い叫び声、低く罵るような声が連続して響いて意識が引き戻される。言葉こそ聞き取れないものの誰かが揉めていることは確かで、イモータル討伐の命を受けて警戒にあたっている身としては喜ばしいものではない。聞こえた方を向けば阿修羅鉾がある。その天辺でギラリと反射した何かから目を離さずに走り出せば軍靴の硬い音に急き立てられるようにして心拍が上がっていく。鉾の上に人影が二人・・・・・・?民間人は立ち入り禁止になっているはずなのに。その片方が幻のように霧散したのは見間違いか、それとも。)   (9/6 01:24:31)
雛/珠代 > 「そこに居るのは誰です!今すぐに鉾から降りなさい!民間人は立ち入り禁止で・・・・・・」(注意勧告が途切れる。走り寄って下から見上げた阿修羅鉾の上に、あの金魚の鰭が覗いていた。こうなる事は分かっていた。はじめから、この道しか私と彼女の間にはなかった。それでもやはりこんな形では会いたくなかった。軍服を纏った私を、見せたくはなかった。)「・・・・・・まそほちゃん・・・・・・。」   (9/6 01:24:43)


マリア/真朱 > 「……珠希さん」(声のほうを振り向き、眼下に佇むあなたの姿を目に入れて、真朱は目を見開いた。即座に声に出してしまった事に対する後悔の念がよぎるも、もはや後戻りはできない。)「……その格好。軍人さんだったの。そっか、魔術師、だったんだ。」(真朱の異能は戦闘能力を持たない。鰭だらけの非力な細腕で不格好に剣を掲げてみせて、精一杯威嚇をした。お願い、珠希さん、逃げて、逃げて。私はもう、人を殺したの。)   (9/6 02:01:32)
マリア/真朱 > 「人を三人、殺したわ。……何度も何度も繰り返された宵宮は、私のせいよ。なんの事かわからない人もいるのかな?ううん、もうわかっているのよね。天下の尊華帝国軍だもの。情報は共有済みかしらね。だからね、近寄る人は殺すわ。……なんでかって?さあ、もうわかんないの。あとにひけないの。行き場がないの。……さあ、お立ち会い……。」(見世物小屋ののぼりを手にしていた時と全く同じように、朗々と声を響き渡らせる。私は、異形の金魚姫。)「…いよいよ宴も酣。本番です。」(真っ赤な体、人ならざる異形の姿。真朱の宵宮が、終わろうとしていた。)   (9/6 02:01:39)


雛/珠代 > 「珠代。真珠の珠に、代。御浜珠代が、私の名です。」(わざと温度をなくした声を返した。珠希など初めから存在しないのだと、甘ったれた自分の幻想を切り捨てるために。そして、せめて最後に嘘を取り払って向き合うために。先程私が見た光はあの剣だったんだろう。振りかざしてみせるそれは、千景神社のご神体ではないのか。悪趣味なのぼりが物騒な剣に変わっただけ。見世物小屋の薄汚い舞台が、ぎらつく派手な山鉾に変わっただけ。私こそがその観客だったんだと、突きつけられて喉が引き攣る。)   (9/6 02:22:13)
雛/珠代 > 「改めて、あなたのお名前を教えていただけますか。どういう字を書くのか。」(悔しさが胸を焼いた。ぐ、と息を詰めて、それでも退くわけにはいかなかった。ごめんなさいね、まそほちゃん。あなたが人を殺したのなら、私はあなたを掬い上げることができない。舞台の外から軍靴で踏み込むのなら、私に与えられる役は、あなたの恋人ではないから。)   (9/6 02:22:24)


マリア/真朱 > 「えっ……。」(改めて名乗ったあなたの凛然とした表情は、まさしく軍人そのものだった。水底から這い上がってくるような、芯のあるひとみ。だけど、真朱の耳にした引きつったような声色の中には、紛れもなくまだ珠希の面影があった。)「……真に朱いと書いてまそほ。それが私の名。……良かった。あなたは”珠希さん”じゃないのね。」(けたけたと笑い声を上げ、真朱はこわれてゆく。強がって、振り切って、あなたが真に向き合おうとする時、真朱は、自分にひとつ嘘をついた。)「躊躇なく殺せる。」   (9/6 02:41:21)
マリア/真朱 > (そう呟いて、山鉾からふわりと降りた。尾ひれのような兵児帯、体中についた鰭がふわふわと宙に浮く。真っ逆さまに墜落すれば怪我をするに違いない、否、死んでもおかしくない高さの大きな山鉾。真朱は地面に叩きつけられ、真っ赤な血を撒き散らし……そして、生まれ変わる。)「……あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」(ひと目見て切れ味が良いとは思えない、拳が十ある程の青銅の剣をあなたの肩に向けて振りかざした。真朱は、イモータルは死なない。死ぬことができない。こんなにも血と、もはや何かもわからない体液にまみれながらも。)   (9/6 02:41:29)


雛/珠代 > 「真朱ちゃ、……ッ!!」(ぐしゃり、地面を打つ音が響いた。そして哄笑。間に合わなかった。投身自殺のような勢いで山鉾から飛び降りて尚立ち上がった真朱が、狂ったように笑っている。その細腕で引きずるように持ち上げた剣は、最早構えているというよりも、重みに振り回されているといった方が正しい。振り下ろした動きは水底に揺蕩っているような、ひどく緩慢なものに見えた。レイピアを抜くまでもなく上半身を捻って躱し、勢いのまま背後に回り、腕を掴んだ。首筋からは咽返るような血の匂いが強く漂って、鱗が剥がれてしまった部分からは肉が見えていた。)   (9/6 03:19:39)
雛/珠代 > 「もうやめて……!!ごめんね、痛いよね、」(あちこちから滴り落ちる血が私の軍服を染め上げていく。こんなにも苦しんで、叫んで、痛々しいのに、このままでは真朱は自身の意志で終わりに辿り着くことができない。逃げようと体を跳ねさせる非力な金魚を抑え込むために、掴んだ腕はそのままに、背中から抱きしめるようにして力を込めた。丁度目の前にきた耳元の鰭が透き通っている。それが綺麗だと、場違いなことを思った。そのせいか、言わずに済ませるつもりだった言葉を思わず囁いてしまう。)「……ねえ。私があなたの恋人になってあげられれば、何かが変わった?」   (9/6 03:19:47)


マリア/真朱 > (狂ったような笑いは、あなたの背後からの抱擁によってぴたりと止んだ。お揃いの赤があなたの軍服を染めゆく。耳鳴りが脳の中で反響し、呼吸が、鼓動がとても早く聞こえる。)「……っう、……ぁ…たま、…」(あなたを、もはやなんと呼べばいいのかもわからなかった。あなたの言葉がひらひらとわざとらしくついた耳の鰭に触れる。真朱はその言葉に、体をびくりと強張らせた。目からは真珠のような涙が止めどなく溢れ、漏れる嗚咽は、『人ならざるもの』にしては、あまりにも生々しかった。)「……な、なに…あ、いや……痛いっ…頭、痛いようっ……!」(あちこちを打った体よりもずっと、脳の奥が割れそうに痛かった。蓋をしていた記憶が、濁流のように流れ込む。)「……い、いわない、でっ、違う、もう、いちど……な、なに?……違う、知りたくない、ううん、…し、知りたい……っ…!」   (9/6 03:43:31)
マリア/真朱 > (走馬灯のように、蘇る一世の記憶。――『千景祭が中止になるなど、尊華始まって以来の事だな。』『外へ行ってはだめだよ。家にいなくてはいけないよ。』『夏は来年だってあるじゃないか』――ない、ないよ。十六歳の夏は、たった一度しか来ないのに。――『外に出たって、まさか、死ぬわけじゃ……』『また一人死んだらしい。』『真朱、夏なのに咳……』――うそ、私……――)「……う、ご、めんなさ……げほっ、……ぐぅっ……」(どうして毎年、こんな気持ちを抱えなきゃならないのかな。夏は、いつも私を置きざりにして……今年こそって、思ってたのに。ただ、それだけなのに。手が届かないと思えば、いっそう憧れをこじらせて。)「たまよさん、わた、わたしが、なにを欲しがってたのか、わかるの?しってるの?……お、おしえてっ、どうして、しってるの。」   (9/6 03:43:37)


雛/珠代 > (私の言葉を聞いた途端、抱きしめた体がぎくりと大きく跳ねた。頭が痛いと泣きながら、華奢な指が縋るように私の腕を掴む。零れた涙は鱗に当たり、きらきらと弾けた。)「千景祭に……、行けなかったのね。疫病が大流行した年、一度だけ中止になった千景祭に、真朱ちゃんは行きたかったんだよね。浴衣を着て、恋人と手をつないで……、夏の思い出が、欲しかったのね。」(私に守るものがなければ、この子が珠希に求めた役割を果たすために、この金魚と共に彼岸へと泳ぎだすこともできたのに。悔しさから強く噛んでしまった唇の皮膚が破れて、血の味がする。)   (9/6 04:22:44)
雛/珠代 > 「りんごあめ、食べさせてあげたかった……!わたあめも、つまんで食べさせてあげればよかったよね。っく……お面だけじゃなくて、万華鏡だって、水風船だって……っ、買ってあげればよかったっ!ごめんね、っ、ま、真朱ちゃんの恋人に、一晩だけでも、っ……な、なってあげられなくて、ごめんね……!!」(視界が揺らいで、喉が絞まって。湧き上がる嗚咽を、もう押し殺せなかった。二度と戻らないあの夏への憧憬を、私が満たすことはできない。この金魚を掬うことは、できない。それならばせめてと、言葉を重ねた。)   (9/6 04:23:04)
雛/珠代 > 「ね、真朱ちゃん、最後だからッ……お化粧、しましょうか。」(最期だから。もう人よりも魚のそれに近いくらい薄くなってしまった真朱の唇に目をやりながら、ぺろり、舌で舐めれば、唇全体に血が広がって端から滴ったのがわかった。)   (9/6 04:23:15)


マリア/真朱 > (あれほど気丈に、軍人らしく振る舞っていたように見えたあなたは、今この瞬間やはり紛れもなく、真朱の知っているあなただった。優しげなお姉さんの声で諭すように語りかける言葉に、小さな金魚はこくこくと頷いた。真朱の求める”完璧な夏”。それは白いワンピースを着た少女であったり、入道雲と海だったり、恋人と行く、お祭りだったり。誰もがきっと抱えているであろう、正しき夏のイデアであり、そして、コンプレックスであった。くだらないと思うかもしれない。大げさな、と思うかもしれない。だけど、疫病に罹った真朱が、最後だと思えばこそ見た夢は『恋をしてみたい』というものだった。恋を知らぬまま憧れだけを膨らませて、こじらせて、自分の中に理想の金魚姫を作り上げたのだった。)「……っう、…ああぁっ……珠代さん……。わ、わたし、ずっとわすれてた。…けほっ……う濁点……わたし、こ、恋、してみたかった。してみたかったの。」   (9/6 04:54:44)
マリア/真朱 > (恋を知らぬまま死にたくはなくて、誰かと素敵な思い出が欲しくて、だから、子供でしかない自分がもどかしくてたまらなかった。何者にもなれないのならば、今しか出来ない事は、精一杯『十六歳の少女』でいることだけだった。珠代の言葉を聞き、また記憶が流れ込む。病床を抜け出してたどり着いた千景神社は、提灯も、人も、何もなかった。その日は宵宮であったはずなのに。病を拗らせる事くらい、わかっていたけれど、行かずにはいられなかった。)「……いいの、珠代さん。た、珠代さんは、珠代さんのままで。……”珠希さん”を、わたしに、ちょうだい。」(血が滲んだあなたの唇にかぶりつく、金魚の大きな口。死にゆく金魚が最後の気泡を求めるように、たった一回、必死な程の接吻だった。恋人って、こういうことするんだっけ?……まだ頭がぼーっとして曖昧で、よくわからなくて。ただ、そうしたいと思った。いつのまにか自分が異能を使えなくなっていることを、真朱は不思議と察していた。)   (9/6 04:54:53)
マリア/真朱 > 「……ば。ばかみたいよね。私、たったそれだけのために、人を殺してしまった。でも、……わからなかったの。今わかったの。」(口の中に鉄の味が広がり、鼻からぬけてゆく。あなたとお揃いの赤い唇で、ようやく幼稚で、たどたどしい懺悔が出来るようになっていた。)「……珠希さん、わ、私を殺して。こんな姿で、生きていたくはないの。溺れて死にたい、金魚みたいに。」(からん、と神剣を放り投げて、体の力を抜いた。流し流され、思えば遠くへ来たものだった。)「お願い。…ひとがきてる。殺されるなら、好きなひとがいい。」(あまりにも身勝手な要求を告げたあと、真朱は目を瞑る。長く短い祭りの最期に、金魚はようやくほしかったものを手に入れました。……金魚は、)   (9/6 04:55:00)
マリア/真朱 > 「あなたに恋をしました。」   (9/6 04:55:06)


雛/珠代 > (いつの間にか、抱き合うようにしてお互いに向かい合っていた。背中に回された真朱の手にはまだ神剣が握られていたけれど、それが振られることはもう二度とないだろうと感覚で分かる。そうして荒れた唇同士が重ねただけの口づけはあまりにも幼くて、お世辞にも甘いものではなかった。それなのに満足そうに目を閉じた真朱が、まるで二度目を待っているように思えて。脱力した体が崩れ落ちそうになるのを抱きとめて支えながら髪を撫でて、首筋に、耳に、額に、軽く何度も唇を当てる。傷ついてしまった鱗を慈しむように。)   (9/6 05:46:18)
雛/珠代 > 「ねえ、呼んで。私の名前。……呼んでくれたら、……ん……」(その先を続ける代わりにもう一度、ゆっくりと唇を合わせて、少しずつ探るように舌を絡めて。真朱の冷たい舌は、血を真水で薄めたような味がした。)「…っは……、ね、呼んで。真朱の、恋人の名前よ。」(急速に体温を失っていよいよ魚のように冷えていく体を抱いたままずるずると座り込めば、紅く艶めく真朱の唇が微かに動いて吐息が零れた。――たまき。)   (9/6 05:46:36)
雛/珠代 > 「――っ!!」(泣いて掠れた喉では、歌えなかった。)「……零れるは、真珠……貫けば泡……。満ちよ、満ちよ、満ちよ……」(首の後ろに手を添えて、もう一度深く口づける。真朱の喉からはごぽごぽとくぐもった音が聞こえはじめ、少しの間びくついていた鰭も、ほどなくしてゆるやかに脱力した。そこにはもう、真朱はいなかった。祭りの終わりが、夏の終わりがあるだけだった。)   (9/6 05:47:16)