この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

珠代&真朱

釜底遊魚

雛/珠代 > (珠希、私は珠希。何度も胸の内で繰り返しながら人混みに目を凝らす。灯籠の灯りに照らされた人々の中には赤い浴衣もちらほら混じっているものの、お目当ての金魚は見つけられずにいた。きっと来ているはず。約束もしていないのに確信めいたものを持ってしまって、当てが外れたらどうするつもりなのか考えてもいなかった。 だって別れ際、あんなに切ない声で私を呼んだんだもの。やめて、自惚れるには足りないわよ。結局あの子が求めているのは珠希でもない。わかってる。でも、最後の思い出にお祭りを楽しんだっていいじゃない。いい加減にして。情けをかけるだけ辛くなるんだから。迷いが次々と浮かび上がって漂う。たった一度、目の前で揺れた尾びれに魅了されたのは私だった。あの子の能力が時間を操作するものだとしたら、私と出会うまでに一体どれだけの終わらない夏を繰り返したんだろう。何のために。誰のために。この場所は違った、このひとは違ったこの夏は違った、って、ずっと満たされなくて、澱んだ金魚鉢から逃げ出したくて藻掻いているんじゃないか。   (9/5 21:05:32)
雛/珠代 > ・・・・・・いい加減、覚悟しなくちゃ。ふっと短く息を吐いて、腐りかけた水草のようにまとわりついてくる思考を振り払った。 巾着から取り出したのは小鳥の形をしたガラスの水笛。薄い桃色の体に黄色や青の塗料で羽根の模様が描かれている。昼に竜灯に頼んで届けてもらったその笛は、見た通りの透き通ったよく通る音で鳴る。その嘴に口付けるようにして言霊を吹き込んだ。) 「零れるは真珠、貫けば泡。満ちよ、満ちよ、満ちよ・・・・・・"鳥居で待ってるわ。"・・・・・・返す白波、寄せる細波、潮騒を彼の岸に届けよ。」(詠唱が終わると同時にサッと湧き出でた細い水流が走り、川のように曲がりくねってどこかへ流れていく。その先にいるはずの金魚を思い浮かべ、水笛を流れに乗せた。祭りの喧騒に浮かれた人々は足元を走る水鳥に気付かない。)「昨日肖ったんだもの。届けてくださいね、九頭竜様。」   (9/5 21:05:46)


マリア/真朱 > (ひょろろ、ひょろろとせわしなく中の玉を動かしながら、鳥の形をしたびいどろの水笛が鳴った。どこかから流れてきた水流にのってやってきたそれを不思議に思いながらも手にとって、吹いてみながら真朱は石段の階段を登る。金魚すくいや風船すくいの水槽がひっくり返っただけにしてはやけにすき取った水が不思議で、上から見てみたいと思ったのだ。階段の真上、本殿の入り口である鳥居が見えてきたところで足を止め、水笛の音がぴたりと止む。)「………あ。」(そこで真朱が見たものは。)   (9/5 21:36:25)


雛/珠代 > (鳥を遣いにやった後で名前を告げなかったことに気付いて焦ったけれど、さらさらとした黒髪が鳥居の向こうに見えた。)「……まそほちゃん。よかった、きっと来てくれるって信じてたから。」(魔術を使ってまで、まるでおびき寄せるような形で呼び出したことを、彼女はどう思っただろう。お面に隠されて口元しか見えないせいで表情が読めない。)「昨日は途中でお祭りが終わっちゃったでしょう。だから……。」(うまく言葉が出てこない。肝心な時ほど舌が回らない私の悪い部分が出てしまっているけれど、これ以上の言葉連ねるのは野暮な気もした。こちらを見上げる彼女のところまで駆け降りて、左手を差し出す。珠希としてここに来たのに、この期に及んで利き手を差し出せない軍人としての自分の頑なさが、今は少し恨めしかった。)   (9/5 22:02:46)


マリア/真朱 > (真朱の目に止まったのは金魚柄の浴衣を着た人魚姫。珠代、いや、真朱にとっては、”珠希”の姿だった。はじめましてと言いそうになったけれど、自分の名を呼ぶ声にはっと口を噤んで。)「……珠希さん!」(階段を駆け上がり、こちらへ降りてくるあなたの元へ引き寄せられるようにして近づく。最後の一歩は少しためらいがちだった。あの消灯の後に起きた事、彼女は気づいているのだろうか。それとも……。)「……うんっ、また会えて嬉しい。……この水笛を拾った時、鳥居で待ってるって聞こえた気がしたの。……九頭龍さまのお導き、かな?」   (9/5 22:20:14)
マリア/真朱 > (差し出された左手をとり、犬張子の仮面の下で双眸の睫毛を伏せた。)「……途中、途中って?……」(『それじゃあ、こうしましょ。あなたは私を山鉾まで連れてって。私はそのお礼として、あそこの屋台でお面を買ってあげる。いかが?』あなたがあの時かけた言葉を思い出す。真朱はお面を買ってもらったし、珠希は山鉾を見る事ができた。それで終わり……じゃなかったのだとしたら?真朱の声色には、『期待しちゃだめ』と抑えるように、けれど抑えきれない期待が震えが現れていた。)「……珠希さん、その浴衣姿、きれい。私も、珠希さんみたいになりたかった。」(苦し紛れに口をついて出た裸の心がまろび出るような言葉。きゅう、と握られた手を、あなたは子供のようだと感じるだろうか、それとも――…。)   (9/5 22:20:18)


雛/珠代 > 「そう……、そうだったの。きっと昨日の九頭龍様が、私の声を届けてくれたのね。」(もしかして、この子はあの鳥が私の魔術によるものだと気付いていない?都合よく解釈してくれたならそれに越したことはないけれど、それに伴って珠希がどんどん独り歩きしてしまうことが、その後に珠代が種明かしをすることで失望させてしまうであろう瞬間がこわい。) 「……お面と山鉾だけがお祭りじゃないでしょう。私がもう少しまそほちゃんと一緒にすごしたかったの。だから、途中。」(この子の望む誰かになってあげられるくらい、私が孤独だったらよかった。そうすれば珠希ではなく、珠代のままでここに来られたかもしれないのに。珠希のようになりたかったと震えた声が、昨日初めて手を繋いだ時と同じようにどこか心細そうに絡められた指が、切なくて胸が詰まって、うまく息ができなかった。陸に上がった魚って、こんな気分なのかしら。浴衣を褒められ、やはり金魚の柄にして良かったと思う。彼女と並んだ時に映えるよう、紅く柔らかな兵児帯を背中で結んで尾びれのように垂らしてある。それに気づいてくれたのかもしれない。)   (9/5 23:08:55)
雛/珠代 > 「……ねえ、まそほちゃん。まそほちゃんだって綺麗よ。」(本心だった。初めて会ったその瞬間、人でないと解っていたのに、その鱗のきらめきに見とれた。揺れる尾びれに惹かれた。甘やかな声に誘われた。綺麗になりたい、憧れに近づきたい。そんな少女特有の揺らぎと焦りがこの子の言葉には滲んでいた気がして、過去の自分が重なった。ゆっくりと右手を伸ばし、濡れたように艶めく黒髪を撫で下ろし、お面の縁をなぞって顎へ。受け入れてくれるといいけれど。)「お化粧、してみましょうか。」   (9/5 23:09:10)


マリア/真朱 > 「…えっ。」(初めて会った時から、真朱はもう少しずつ人間ではなくなっていた。見世物小屋ののぼりを手にして、『我こそは忌み子、異形なり』と周囲をだまくらかして、精一杯イモータルであることを隠したのだった。そんな真朱を、あなたは綺麗と言ってくれた。)「……。」(『嘘でしょう』と言うのは簡単だけれど、真朱はあなたを困らせたくなくて、お世辞だと割り切って受け取る事にしようとこくりと唾を飲んだ。お世辞だと解っていてもぬか喜びしてしまいそうな自分が厭で、思うように笑えなかったかもしれない。あなたの利き手が髪に、顎に触れる。)「あ、あありがと、珠希さん、……。」(こくりとうなだれるように俯いた。頷いたつもりだった。嘘だと解っていても、この今だけ、ひと夏の夢に酔いしれたいと思った。水鏡を放り投げて、いやな自分は見ないふりをして。――今日だけ、私を金魚姫にしてくれる?ゆっくりと仮面を外す。顔の1/3程を覆う鱗が、光に当たったところだけ玉虫色にきらめいた。)   (9/5 23:21:24)


雛/珠代 > (頷いたまま上げようとしない視線。頬を覆うおかっぱを指先で掬って耳にかけれてやれば、ちらちらと光を反射した頬の鱗が赤のようにも金のようにも見えて眩しい。巾着から貝殻に入った紅を取り出して開く。この子にはもっと、桜貝のような色の方が似合ったかもしれないけれど。)「今私がつけている口紅と同じ色よ。まそほちゃんの浴衣に合うと思って。……そうだわ、」(ひやりとした頬に手を添えて上を向く用に促しながら、ふと思いついて貝を閉じた。薬指で自分の唇を拭えば、少しの紅が指先に移る。それをまそほの唇に滑らせると、瑞々しい柔らかさが私の指でふるりと揺れて淡く色づいていく。成熟し切らない少女の、人にも金魚にもなり切れない少女の、可哀想で美しいこと。)「……これでお揃いね。わたしたち、――金魚姫ね。」   (9/5 23:58:55)


マリア/真朱 > (細い指先で髪に触れられた瞬間、こそばゆくて緊張で丸い目が揺れた。薬指を通して行われた儀式めいた接吻は、真朱にとってどこか官能的で、大人の女性を思わせた。時が止まる。)「……珠希さ……」(朱く色づく唇は、紅のせいだけだろうか。魚が跳ねるような鼓動は、何かやはり押さえつけられているように、きゅう、ともどかしかった。何か、何かを忘れている。わからない、苦しい――。)「金魚姫……。」(見ないと決めていた自分の顔が、あなたの水に満ちた瞳にちらりと写ったのが見えた気がした。理想の姿とはかけ離れた異形の姿。浴衣も紅も、とてもじゃないけれど似合っているとは思えなくて。……それでも、それでも初めて紅を付けたこの瞬間、このワンシーンが美しいものであるという、不思議な確信があった。美しい、きっといま。わたしたちは、だれよりも。)「……おそろい、うれしい。行きましょ、珠希さん。」(珠希の口調を真似して手をとった。二匹の金魚は游いでゆく、夏の終わりに向けて。)【釜底遊魚】   (9/6 00:15:40)