この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

火津彌

-火津彌少将の呑んでみなはれ- 第一話:酔果

マリア/火津彌 > 【-火津彌少将の呑んでみなはれ- 第一話:酔果】 「あれが呑みたい…。」(カナカナカナカナ…じーわじーわじーわじーわ……。蝉が鳴き、西に傾き始めた太陽が依然として街を照りつける夏の午後三時。寝泊まりをしている兵舎の自室にて、休暇中の火津彌は気だるげにぽつりとそう呟いた。本日は特に外へ繰り出す用事もなく、早めの湯浴みを済ませ木綿の浴衣に楽な兵児帯でもして、窓際でまどろみながらゆっくり本でも読んで過ごしていた所だった。しかし、頁をめくる手は早々に止まり、先程の独り言……。────この男、酒の事を考えている!────いかんせん読書に集中出来るほど、この栄郷の夏は涼しくは無かった!暑気!熱気!湿気!──火津彌はこくりと乾いた喉を上下させて目を閉じて、『こんな日は、あれが恋しい……』ともう一度思い馳せるのだった。)   (8/22 23:56:43)
マリア/火津彌 > 「梅酒………今年、まだ呑んどらんなぁ。」(そう!梅酒である!火津彌はそういうのが呑みたい気分だった。否、杏酒でもいい。とにかくそういうやつである!六月頃に仕込んでいればそろそろ呑めたはずだろう。熟成した方がうまいに決まっているが、いつも角砂糖が溶けきったふた月頃から飲み始めてしまって、冬にはなくなっているのがこの男のお決まりだ。しかし、今手元にはそれがない。なぜなら今年の梅雨は長く、青梅が不作だったのだ!従って火津彌の自室の押し入れにはとうとう出番が来なかった糖蜜焼酎がただひと瓶、あるのみである。……まさか、これを飲むとでも言うのだろうか?糖蜜焼酎は匂いが控えめであっさりしていて果実酒を漬けるにはぴったりなのであるが、あくまで割りものや果実酒にするのに向いている安酒というイメージが強いものである。少将ともあろう人間が、飲むものがないからといって手を出すには、あまりに風情がないのである!嗚呼、既にその瓶に手をかけているではないか!この男、先程まで読んでいた本はどこへやったのだ!)   (8/22 23:57:21)
マリア/火津彌 > (顎に指を宛てがい、火津彌はその瓶のラベルを眺めていた。そして思い立ったように瓶を畳の上に置き去り、箪笥から財布を引っ張り出して、浴衣姿のまま下駄をつっかけ自室の扉を開けた。どこへゆく少将!ツマミを買いに出たならついでに酒も買ってこい!ぽつんと残された糖蜜焼酎の処遇は如何に……続く!)前編〆   (8/22 23:58:09)


マリア/火津彌 > 「くくく……。ええ事を思いついたで。」(お世辞にも人相がいいとは言えない細い目付きでほくそ笑みながら自室に戻ってきた火津彌。時刻は午後3時半、案外と早い帰還であった。そして右の脇にはまるまると太った西瓜が!──そう、この男は西瓜を買ってきたのである!実に、浮かれぽんちである!)「桃や梨や檸檬を買うて即席果実酒を漬けてしまおうと思ったのやがな……。」(畳の上に胡座をかき、西瓜を膝に置きぽんぽこと鳴らしながら火津彌は糖蜜焼酎の瓶に語りかける。黒黒艶々とした西瓜は身が詰まっているらしく、木魚のように実に良い音を奏でている。ちなみにその即席果実酒は王国のサングリアに着想を得たものであった。──しかし、しかし!)「八百屋に行ったら、もっとええものを見つけてしもうたからなァ…!」(もっといいもの……それがこの、スイカであるようだ!スイカを切って漬けるというのだろうか?悪くは無いかもしれないが……水気の多い西瓜でそれをやると、果実酒と言うよりは焼酎の西瓜汁割りのような風味になるのだろう。一体何を考えている、火津彌少将!)「さぁ……僕のもくろみはうまくいくやろか。」   (8/23 00:33:20)
マリア/火津彌 > (にやにやしながらカラカラと糖蜜焼酎の蓋を開け始める。サイズにして四合。きゅポンと音を立てて開けられるタイプではなく、ねじ式のアルミ蓋だ。その蓋を手に取り、鋭利なふちを西瓜に突き刺した!──プッ、さく、という音と共につやつやの皮へ蓋が沈んでゆく。そしてそれを軽く抜けば、蓋の中へ西瓜の皮の白い部分が詰まり、西瓜には丸い穴が空いた。)「……これでも喰らえ!」(そして、おもむろに糖蜜焼酎の瓶の口を、その穴へ突っ込んだ!水気の多い西瓜の赤い内部へと、ぐりぐりと押し込みながら酒瓶が挿入されてゆく!──少し零れた糖蜜焼酎の水滴が、丸い西瓜の上を弾きながら伝ってゆく。)「あとは待つだけや!ああ、桶と氷も欲しいな。こんな時に氷の魔術でも使えれば便利やろうに……………──」(そう呟いたきり、口を真一文字に結び火津彌は俯いた。思い返されるのは、かつて自分の下にいた氷の魔術師。今は、どうしている事だろうか。)   (8/23 00:33:38)
マリア/火津彌 > (じーわ、じーわ、じーわ……いつのまにか西日は、セピア色に部屋中を染めていた。ゆっくりと時間をかけて、糖蜜焼酎とノスタルジアが西瓜に染み渡ってゆくのだった。)「……梟……。」中編〆   (8/23 00:33:54)


マリア/火津彌 > 「いい頃合いか……。」(時刻は午前3時。四合の焼酎が西瓜に染み渡るまで、ほとんど半日を費やしてしまった。蟋蟀がちりちりと鳴き声をあげ、窓から熱風がそよぐ熱帯夜。読み終わった本をぱたりと閉じ、火津彌は西瓜に刺さった瓶を引き抜き、西瓜の表面を軽く撫でた。指先で弾けば、先程よりも重い音がトツトツと鳴った。)「包丁、包丁…」(大事そうにそれを抱え台所へと向かう。檜のまな板の上へ西瓜を置き。包丁を手にとり、刃を突き立てる。小気味のよい音を立て、すこんと真っ二つに割られて赤く輝く中身が顕になった。)「おおおお……!」(見た目は普通の西瓜のようである。更に包丁を入れ、かぶりつける大きさに切り分けてゆく。)「ええい、我慢ならん!」(汗をかいた顬を袖でぬぐい、一切れを手にして一思いに口にした。じゅわ、と広がる瑞々しさと酒の香り、強烈な西瓜の甘みに負けない酒本来の苦味が、実にアダルトな風味である。酒がガツンと来るのに対し、後味は爽快。火照った体に染み渡るのがよく分かるだろう。これは一瞬で酔っ払ってしまうことうけあいだ。)   (8/23 01:00:33)
マリア/火津彌 > 「うはあぁぁ、たまらん……。」(しゅぐ、しゅぐ、という瑞々しい音と共に貪り進め、ごくんと飲み下す。)「くぅ〜〜〜!」(火津彌は今、尊華一の幸せ者に違いない!)「こりゃあ一人でやるにはもったいないなァ。量もなかなか……。よし!」(切り分けた西瓜を適当な更に盛り付け、鼻歌を歌いながら向かった先は、部下の部屋の前であった。この男、今が何時か解っているというのだろうか?)「……竜灯!おい!どうせ起きとんのやろ、ええもんがあるさかいに、ちょっと顔出し。」(今夜は、共有する誰かが必要だ。美味し酒、そして、センチメンタルな思い出話を。そう言えば、こいつとあいつは仲が良かったはずや……なんて思いながら、ダメ押しの一言を告げようか。) 「呑んでみなはれ!」後編〆   (8/23 01:00:48)