この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

真朱&珠代

一衣帯水

マリア/真朱 > (真っ赤な体、鱗だらけの手足に顔。釦を取り付けたようで銀色にひかるまんまるの瞳、人にしては大きな指の間の水かき。なんとか人型を保ってはいるが、この姿が異形でないならばなんだろう。ただふわふわと揺れる兵児帯と、褪せぬ黒い髪だけがまだ彼女を少女たらしめていた。堂々と縁日を闊歩する金魚の姿に人々はどよめき、目を見張る。真朱は見世物小屋から奪った、趣味の悪い色をした『怪奇!』ののぼりを両手に持ち、見せつけるようにして衆目を一身に受けるままにしていた。)「世にも珍しき金魚姫のお通りだよ!後ほど開幕!」(だけど、いつまでもこんなことしていても『完璧な夏』は手に入りそうにない。こんなわたしでも、遊んでくれるひとは居るかな。ふと、わたあめとしゃぼん玉が混ざったような、甘いけれど爽やかな香りが鼻を掠めた。目の前をふわふわと揺れる桃色がかった髪に、釘付けになった。)「こんばんは、大きなわたあめね。どこで買ったの?……あ、わたし真朱、ひとりなの。おねえさんは?」   (8/15 00:04:08)


雛/珠代 > ((わたあめとラムネを持ってそぞろ歩いていると、急に毒々しい色ののぼりが目に入った。その陰から出てきたのは真っ赤な浴衣の、真っ赤な……見るからに人間ではない少女。ボリュームのある兵児帯が尾びれのように透き通って、まるで水の中にいるように揺れている。イモータルなのは明らかだ。こんな人通りの多いところで戦うわけにはいかない、一般人の非難を……!一瞬慌ただしく思考を巡らせたけれど、なぜか表情に敵意を感じない。あら、と拍子抜けした気持ちで見つめると、彼女の頬のあたりの鱗が提灯の明かりを反射してきらきらと光って、少しの間見とれてしまった。))「向こうの方にある屋台で買ったんです。私もひとりよ。」   (8/15 00:38:49)
雛/珠代 > ((方向を手で指し示しながらつい先ほど立ち寄ったばかりの屋台を思い出す。あのお兄さんも軍人なら、何かあったら一般人を庇って動いてくれるはず。この子とは会話も成り立ちそうだし、どうやら興味があるのは私の持っているわたあめの方みたい。そちらに誘導しつつ説得を試みてもいいかもしれない。))「まそほちゃん、せっかくだからご一緒しましょうか。お近づきの印にわたあめをごちそうしてあげる。あの屋台、なんでもあって面白いの。」   (8/15 00:39:33)


マリア/真朱 > (向こうの屋台、と言いながら指す指の方向へ目をやり、あぁ…と冷たい声を漏らした。真朱にとってこの祭りは六回目で、言われてみればあそこの屋台はいかにも、こういうド派手なわたあめを作りそうなところだと察した。)「……ありがとう、きれいなお姉さん。でも平気、あそこの屋台のお兄さんには嫌な思いさせられたから行きたくないんだ。……ねぇ、山鉾見に行かない?」(そう言いながらあなたの手をとろうと片手をのぼりから離すが、鱗だらけの自分の手が提灯の灯りに反射してぎらぎらと煌めいたのが視界に入り、はっと手を引っ込めた。)「……まだ作ってる最中だけど……ここからなら九頭龍鉾が近いよ。わたし、病気でその、こんな体だから。ふだんは見世物小屋の興行について回ってて人のいる所には出れないの。でも、お祭りくらいなら良いかなって。」   (8/15 00:53:45)
マリア/真朱 > (きゅ、とのぼりを握りしめて、言い訳がましく泡沫を吐いた。)「知ってる?篝火って、『あっち』と『こっち』を結ぶんだって。だから、神様も妖怪も、お祭りには来るのよ。……なら、妖怪じみた私だって、紛れててもおかしくないじゃない?」(口元を自嘲気味に歪めて、それでも丸い目が細められる事はなく。金魚の瞳は、じっとあなたを見ていた。)   (8/15 00:53:56)


雛/珠代 > ((水面近くを泳いでいた金魚が身をひるがえして鉢の底へと潜っていくような速さで表情を変えた少女は、私に声をかけてきた時の無邪気さを急に失って、ずっと大人びて見えた。もう飽き飽きなの、つまらないの。そんな声が聞こえてきそうな黒い瞳がこっちを見つめている。あの屋台の彼がこの子を手荒く扱ったとも思えないし、軍からは何も情報が来ていない。けれどこれだけの人に見られているのだから、情報が軍に伝わるのも時間の問題だ。私がこの子と山鉾を見て回れば少しは援軍が来るまでの時間を稼げるかもしれない。))   (8/15 01:30:08)
雛/珠代 > 「この辺りには詳しいの?私、お祭りに来るのは帝都に来てから初めてなんです。エスコートしてくださいな。」((ね、と笑いかけて、わざと自分から手を取った。一度は私に伸ばした手を引っ込めたのがあんまりにもいじらしくて、そのままにはしておけなかった。でも、同時に私は軍人だから。もしもこの子の気が変わって一般人に狙いを定めたら?その時両手が塞がっていた方が良いに決まっている。)) 「ねえ、せっかく素敵な浴衣を着ているんだし、そっちののぼりよりあなたにはこちらの方が似合うと思うんです。えっと……今は私の食べかけしかないけど、よかったら。」((わたあめを差し出して、代わりにのぼりを手放すように促してみる。))   (8/15 01:30:28)


マリア/真朱 > (エスコートしてくださいなんて素敵な言葉を頂いてしまっては、心の浮き立つのを我慢できそうもなかった。あぁ、素敵!こういう出会いをずっと待っていたんだわ。)「任せて!わたし、生粋の榮郷っ子なのよ。千景神社はわたしの庭みたいなものだから!」(『興行から離れられない』と言ったそばから矛盾を紡いでいることに気づきもしないで、真朱はその場を軽くぴょんぴょんと跳ねた。あなたのほうから繋いでくれた手はどこかひんやりとして心地よく、水が合ったような気がした。きゅう、と指を絡めて繋ぎ直して──なんだっけ、この繋ぎ方。なんか、名前があったような。……うーん、忘れちゃった。──記憶に蓋をするように、大きな口の端を上げて微笑む。)   (8/15 01:46:09)
マリア/真朱 > 「わたあめ……ん、嬉しいけど、……」(のぼりを手放すということは、見世物小屋の娘であるという説明書を手放すようなものだった。イモータルだと思われたら、わたしの宵宮は台無しになってしまうかもしれない。困ったように俯いてから、苦しげに呟いた。)「ううん、だめ。……わたし、ほら。こんな顔だから……」(説明にしてはあまりにも足りない一言だったけれど、それでも真朱はそれ以上を口に出来なかった。当たりを行き交う人々はまだ真朱にちらちらと視線を送るが、隣に美しいあなたが居ることで先程よりはその奇異の視線も和らいでいるように思えた。)   (8/15 02:05:04)


雛/珠代 > ((千景神社はわたしの庭だなんて、さっきと言うことが違う。一体どれが本当のことなんだろう。でも、この子がイモータルだと分かった上で、軍人としての自分を隠して優しそうなお姉さんの演技を続けている私に人のことは言えない。それにこちらの方がずっといい。見世物小屋の粗末な舞台にこの子が立つところを想像すると、なんだか目頭がつきんと痛むから。ゆるく解けてもう一度、今度こそ彼女自身の意志で絡められた指は意外にも私の手に馴染んで妹達が幼かった頃を思い出させ、ますます後ろめたさを募らせた。))   (8/15 02:33:18)
雛/珠代 > 「それじゃあ、こうしましょ。あなたは私を山鉾まで連れてって。私はそのお礼として、あその屋台でお面を買ってあげる。いかが?」((手近なお面屋を指差してからわたあめを差し出し、もう一度笑いかけてみる。これなら悪趣味なのぼりを手放してくれるかしら。どうせいつか手にかけてしまう時が来る。そしてその時はそう遠くない。それならせめて、最後にお祭りを楽しんだって罰は当たらないはずだから……宵宮に来ている神様だって妖だって、お面をつければきっと、私達のことなんて誰にも分からない。))   (8/15 02:33:37)


マリア/真朱 > (あなたの提案を耳にして、真朱はゆるゆると顔を上げた。するりと繋いでいた手を離し、脇へ離れたかと思えばのぼりを道の端の木に立て掛けて、とことこと戻ってくる。返事の代わりにもう一度、あなたの手をとって指を絡めた。)「ありがとう。」(歩きながら、丸くて黒い瞳とあなたの桃色の、珊瑚のような瞳をかち合わせた。名前、聞こうかな……そう思ったけれど、先にお面を買ってもらうことにした。狐面の他には般若やひょっとこ、オカメなど。どれもあんまり可愛くないなぁ、なんて思って目を滑らせていると、犬張子の顔をしたまんまるいお面が目に止まった。)「……あれがいい!」(ちょっと子供っぽいと思わなくもなかったけれど、まんまるの目が愛嬌たっぷりで。)「似合うかな?お姉さん……ねぇ、名前聞いてもいい?」   (8/15 02:53:18)


雛/珠代 > 「どういたしまして。それじゃ行きましょうか。まずは浴衣に合う素敵なお面を探さなくちゃ。」((よかった、やっと手放してくれた。のぼりがある限りこの子はきっと唇を歪めて無理に笑うのを止めない気がしたから、あんなものは暗がりに置いていこう。そうして着いたお面屋はなんだか渋いデザインのものばかり置いていたけれど、一つ気に入ったものがあったらしい。))「うんうん、まあるいお目々がかわいい!・・・・・・お名前は、買ってからね。」   (8/15 08:22:30)
雛/珠代 > ((店主にお代を渡してお面を受け取り、軽いお世辞を聞き流しながら、ついに投げかけられた問いに心の内は波立っていた。この子の興味がわたあめからじわじわと私自身へと移ってきていることに、気付いていなかったわけじゃない。けれど、名乗ることに意味があるのか。今はこうして過ごしているけれど、この子はイモータル。私の肩より低い位置にあるつむじや私よりもずっと小さな歩幅に惑わされそうになるけれど、あくまで討伐対象なのに。頭の後ろでお面の紐を結んでやってまた歩き出しながら、近づいてきたお囃子にかき消されないように、少し屈んで耳元に囁いた。))   (8/15 08:23:10)
雛/珠代 > 「私の名前は、たまき。真珠の珠に希望の希、で珠希。」((ごめんねと、声に滲んでいなかったか。恋人繋ぎの指先につるつると鱗が当たっている。半分混ぜた本当と、もう半分の出まかせと。ただ宵宮を楽しみたい自分と、軍人としての自分と。全部揺らいで判断が曖昧になってきている。なんだかもう、この小さな金魚の思うままに二人でどこまでも宵宮を漂い続けて、朝を迎えたいような気分だった。))   (8/15 08:24:32)


マリア/真朱 > (ひんやりと落ち着くやさしい手が、髪に触れて真朱の顔にお面を取り付ける。なんとなくあしらわれたような対応に引っかかりを覚えつつも、それはまだ真朱の表層意識にすら現れない、石を穿つ力もない雨垂れに過ぎぬものだった。歩きながらふと告げられた名前は、喧騒に塗れた祭りの渦中で、水の中のように響いた。)「珠希さん。……素敵な名前、ぴったりね。」(やけに甘えた声色、絡めた指。それがどうやらこの出会いに波紋を投じてしまっていることにも気づかず、真朱は無自覚に秋波を送り続ける。)「ほら、あそこ。あれが九頭龍鉾だよ。」(建設を初めている山鉾が見えてくると、シンボルとなる九つの頭を持つ龍を指さして、あなたのを手を引く。)「教えてあげる!九頭龍明神のご利益はね、……………あれ、えーと……。……えっ、と。」   (8/15 21:37:55)
マリア/真朱 > (『生粋の栄郷っ子』が余程誇らしいのか、意気揚々と開いた口。それは後半になるにつれ徐々に語気が窄められ、指はゆるゆると下げられた。ぱさ、と浴衣の裾に自らの手の甲が当たり、立ち尽くしてからすぐにはっとあなたへ向き直った。)「……水神さまだから、水に纏わる信仰のひとは肖るかも。うん、多分そんな感じ。あー後は、金運とか商売繁盛とかかな?でも、どこも大体は同じよね。」(最もらしい説明で取り繕ったあと、えへへと声を漏らした。その後に続く言葉が出てこず、気まずそうに視線を落とす。『エスコート』しなくちゃ。次は、何をすればいいんだっけ……。頭で同じ言葉ばかりが反響する。寄せては返す、徒波の如く。)   (8/15 21:38:29)


雛/珠代 > ((とうとう、一夜限りの人格に名前がついてしまった。後悔をしないために名乗った名前が逆に気持ちを重くする。この子が求めているものの輪郭は少しずつ見えてきているのに、珠代は結局望むようにしてあげられない。それならせめて珠希だけでも。この宵宮の間だけでも・・・・・・。自分への言い訳を考えながら歩いていたら、ほら、と示されてはっとした。顔をを上げればいつの間にか、九頭龍鉾が人々の頭上高く聳え立っている。建設途中でこれだけの美しさなら、完成すればどれだけ豪華絢爛な鉾になるのかしら。))「すごい迫力・・・・・・。」((思わず感嘆の声を上げた私に、九頭龍鉾のご利益について得意げに話し始めたのが微笑ましい。自分の知っていることを説明してあげられるのが嬉しいのかもしれない。   (8/15 23:43:07)
雛/珠代 > ところが言葉はすぐに途切れがちになり表情も曇り始める。声だけで曖昧に笑ったこの子には曖昧な記憶しか残っていない。そのせいで満足に説明できないのが明らかだ。イモータルが持つ生前の記憶なんてその程度だと分かっているのに、なんだかやるせなかった。俯いた頬に手を添えたって、きっと振り払われてしまうから、そこには触れず声を弾ませてみる。「私の信仰は八百比丘尼だから、水神様なら肖りたいなぁ・・・・・・!聞いたことある?八百比丘尼。田舎の方の信仰だから、都会っ子のまそほちゃんには馴染みがないかしら。」((言いながら、空になったラムネの瓶を右目に翳してみる。なんとかこれで興味を惹ければいいのだけど。瓶を通した光は乱反射し、九頭龍鉾は実物よりも一層ぎらぎら輝いて、今にも九つの頭が動き出しそうに見えた。))   (8/15 23:45:23)


マリア/火津彌 > (また静かになってしまった真朱は、あなたが口にした信仰の話に、助け舟とばかり食いついた。八百比丘尼の話なら少しは聞いたことがある。とは言っても、伝承など各地で違うものになっている事も少なくない上、それさえもうろ覚え。あなたの言うところのそれと、真朱の中のそれが一致するかどうかは……。)「……あぁええと、知ってる、多分!人魚の伝承…よね。うんうん、そっか。その波打つ髪も珊瑚みたいにきれいな目も、珠希さんって人魚姫みたいだから、ご縁を感じるの当たり前よね。……私たち、金魚姫と人魚姫ね。」(ほら、この程度。目こそ細めはしなかったけれど、幸せそうな声色に真朱の浮かれ具合が見て取れるだろうか。あなたがすっと掲げたラムネの瓶に閉じ込められた九頭龍を、万華鏡でも除くかのように無邪気な瞳で真朱も見つめた。小さな世界に閉じ込められて、歪められた景色の、なんと美しい事か。まるでそれはこの宵宮と同じ──少女は、そんな幻想が現実になればいいと思っていたのだ。否。なると信じて疑わないのだ。夜を、祭りを、自身の万華鏡に閉じ込め続けて。)   (8/16 01:04:34)
マリア/火津彌 > (『──行方不明って…』『──明日の本宮はどうなるかね』『──いやぁ、流石に中止には出来ないだろう、何しろ…』『だけど、みんなおかしいって言ってるぞ。』 )   (8/16 01:04:50)
マリア/火津彌 > (〝1日目〟には耳にする事の無かったような声が、あちこちで聞こえ始めている。聞こえないふりをしたかったけれど、真朱はあなたからするりと手を離した。そうせざるを得ないと、何かにプログラムされているかのように。)「珠希さん。」「あのね……。」(明日も、と口にしようとした瞬間。提灯の中の蝋燭がいっぺんに尽き、ふっ、ふっ、と消え初めた。周りを見渡すほんと数秒のうちに、あっという間に辺りは暗闇に包まれて。)「……」(ちくり、ちくりと、胸を刺す痛みが増してゆく。この暗闇はいつも、何か思い出したくないことを無理やり掘り返すようだった。真朱は後ずさっただろうか、それとも、駆け出しただろうか。少なくとも、もうあなたの側には居られなかった。──静寂。遠くで悲鳴が響いた。)〆【一衣帯水】   (8/16 01:05:03)