この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

私の菖蒲道

ゑゐりあん/董 > 「我々は、この國の“痛み”を背負う宿命があるのだ」(私が剣の稽古をしていた時、父が突然そう言った。あれは確か、まだ私が12歳の頃だっただろうか。一族きっての魔術の使い手ともてはやされ、一族の中でも頭一つ抜けた剣術の才能を持つと称賛されていた、純粋無垢で、國の為に戦おうと躍起になっていた時である。そう言えば私が小太刀の二刀流に目覚めたのも、その時だったかもしれない)「この伊丹家は、一度愚かなる者が頭となったが故に、滅ぼされたことがあった。しかし、その危機を尊華帝様が救ってくださったのだ。故に、我々伊丹家は國の為に生き、國の為に死ぬ運命にある。…響希。お前もその運命に従い、生きよ。お前の父は私ではない。お前の母は薫ではない。お前の父は、この國だ。お前の母は、この國だ。そのことを、決して忘れるでないぞ」   (8/11 23:31:56)
ゑゐりあん/董 > (今思えば、幼子に、そして自分の子供になんてことを言うんだと思う。しかし、父も母も、ましてや一族のほとんどがそう言った考えを持っていた。そして私も、幼き頃はその考えを持っていた。しかし、私が伊丹家という重圧に、重責に押しつぶされてしまい、全てが嫌になっていた16歳の頃。もう一度伊丹家の存在意義について考えれば、何か変わるやもしれないと淡い希望を抱き、私は父親に質問をした)父上…。どうしてそこまで、國に忠を尽くせるのですか?(その時、書斎で本を読んでいた父の驚いた顔をよく覚えている)「…お前にはまだわからんか。仕方あるまい。お前はまだ真の意味で國に仕えてはいないからな。だが、よく覚えておくといい。己を救ってくれた相手に一生涯の忠を尽くす。伊丹家ではその心構えを、“菖蒲道(しょうぶどう)”と呼ぶ」菖蒲…道…「左様。菖蒲の特徴を言ってみよ」   (8/11 23:32:14)
ゑゐりあん/董 > 刀のように鋭い葉があり…紫や白の花を咲かせる…「そう。我々は武道を重んじ、菖蒲の葉のように鋭い刃を以て、主君を命に代えても守る。それが、菖蒲道よ。響希よ、覚えておけ。お前の胸にも、お前の母の胸にも、そして我が胸にも、この“菖蒲道”は脈々と受け継がれておる。お前も、その命を己が主に捧げよ。そのことを、努々忘れるでないぞ」(おそらく父は、その菖蒲道を帝國に対して向けろ、と言っていたのだろう。…しかし、その時の私はとっくにそんなことをするつもりはなかった。そして私は数年後に家を飛び出した。伊丹家の重圧から逃れるために、伊丹家の人間を辞めるために。そして私はついに見つけたのだ。己の主に。菖蒲道を実行すべき、主君に。それは國よりも大切なもの。私を救ってくれたもの。私の心に巻き付いた茨を、燃やし、取り払ってくれた人。私は、そんな彼に忠誠を誓おう。私の手を、足を、頭を、心を、技を、心を、声を、命を。全てをあなたに捧げよう。   (8/11 23:32:38)
ゑゐりあん/董 > あなたが望むなら、私はなんだってしよう。もちろん、そんなことを口に出せばあなたに怒られるだろうし、他の人から何を言われるか分かったものではないから言わないけど、でも。それでも、私は心の中では声を大にして言おう。私はあなたに忠誠を誓う。あなたの身を必ずや守って見せよう。それが私の宿命、それが私の菖蒲道だ。今はまだ何一つとしてあなたにはかなわないけれど、いつか必ず、あなたを追い抜いてみせる。そしてその力で、あなたを守ってみせる。私があなたの為に死ぬその時まで、一緒に居てよね。そうじゃなきゃ、許さないんだから)【私の菖蒲道】   (8/11 23:32:46)