この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

真朱

宵宮金魚姫-壱

マリア/真朱 > 「……宵宮、終わっちゃう。」(優しいおにいさんに貰ったりんご飴の串を口に、千本鳥居を抜けたさらにその先、階段の一番上から灯りの消えた千景神社を見下ろした。まだ人はいるはずなのに、灯りが消えた瞬間にしんと静まり返るのは、どうしてだろう。まだそのにいるはずの人たちを想いながら、りんご飴の串を階段下へ放り投げた。何度もかたん、かたん、かたん、と跳ねる音を立てながら串は宵闇に吸い込まれてゆく。楽しかった、はずなのに。満たされない思いの理由がわからず、真朱は俯いた。まだ夏が完成してない。わたしは、あの夏に取り残されたままだ。)「……」(くるり、くるりと鰭を翻し、月を仰いで、真朱は歌いだす。)「……︎きんぎょーやー、きんぎょー……」(桶を担いで歩く金魚売りの売り声。真朱の肌が少し、朱く輝いた。提灯の灯りをそのまま染み込ませたような肌は、赤子のような、酔っ払いのような、微かだけれど、〝異形〟の姿。)「……このままじゃまだ、終われない」【宵宮金魚姫-壱】   (8/9 02:05:31)