この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

雅螺

夢見鶴

極夜@雅螺 > 「おっと、」(ただ、何気ない日常。此奴の普段の言動とは正反対に、綺麗に整理整頓が施された自宅の端、最低限の厨。其処に羽織を脱いで軽く袖を紐で縛り、なんて事はない、調理をしていた。己が得意とするのは細胞や整理整頓、だが其処に料理という御家庭必須の二文字は生憎含まれていないようだ。まぁ、何があったかというなら、丁度揚げ物をしていたがゆえに跳ねた油が指に付いた。其れだけだ。火傷なんてものではないし、直ぐに火力を弱めて、其れで、そう、それで。──全く情けない、現役の頃は料理なんて機会はなかったから忘れ掛けていたか。みっともないがまぁ、誰もいないんだ。精神安定に最も必要なのは自分が落ち着くこと。何事も自分が意識しなければ始まらない。御伽話の主人公が何時迄も脇役顔じゃあ話はお終いだ、其れと同じだ──)   (7/15 22:57:59)
極夜@雅螺 > 「大丈夫。落ち着け。落ち着け雅螺──白鶴。お前の前にあるのは何だい?炉じゃないだろう。ただの油だ。落ち着け、落ち着けったら、大丈夫だから…………嗚呼全く、いい歳をして。お前はもう飛べるだろう。雛鳥じゃないんだ。いい加減に克服しろ」(繰り返す。繰り返す。繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して──やっと、手の震えが止まった。一度料理は取りやめ、冷めて行く天婦羅をぼうっと眺めながら少し、距離をとって座り込む。心の奥の、誰も知らない空洞。風の吹き荒ぶ空洞。何年かぶりに顔を出した空洞に棲んでる幻の怪物を追い払い、ぎゅう、と半ば無理やり手袋を嵌め直した。今日はもう、やめにしよう)   (7/15 22:58:11)
極夜@雅螺 > 『御免なさい、御免なさい、ちちうえ……もう二度としません、きちんとします、かんぺきに、だから──っあ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!』(ぎり、と掴まれた力の強さを、今も鮮明に思い描く。轟々と燃え盛る炉の炎に突き入れられた両手が忽ち赤熱して、じゅくりと膿んだようで、ぼとり、確かに指が焼け落ちたとさえ錯覚した。10を超えて何年か。そんな、未だ少年といえる或る日。ほんの少しの、小さな間違い。けれど父は気に入らなかったのでしょう。完璧を熟せない己が悪いのだと喉から絞った虚しい言葉は届かないまま、あの日、自分の両手は焼けたのだ。幸いにも──なのか、実の母親に手当てを施され、指が落ちる事はなかった。けれど、だから何だというのだろう。両手が焼け爛れた。其の衝撃と痛みと……其れから、哀しみ。幼い自分は気を失って、暫く微睡んではまた眠り、意識が戻らなかった、らしい。今でも夢を見る。心の強くなった今では影響を及ぼす事は稀にしろ、そんな夢を見ては寝汗が酷く、夜中に目覚めようものなら朝まで一睡も出来やしない。   (7/15 22:58:24)
極夜@雅螺 > ────悍しい影を振り払い、手袋を取ってほつれかけた包帯を巻き直す。醜い火傷の痕。刀を抜かなくなった一つの理由でもある。こんな手では、本当は、花に触れるのも烏滸がましいだろうか。こんな手では、誰かの手を握ることも許されないのではないだろうか。抱え込んだ影が誰にも露呈しないように。呑み込んだ悲鳴が誰にも聞こえないように。ぞっとする程冴えた月ひとつ、鶴の飛べない夜更の空にぽっかりと浮かんでいた)   (7/15 22:58:39)