この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

ビナ&咲夜

催涙雨スタティックドラマ

骨牌/咲夜 > (白い煙が夜空へと昇る様は白妙の帯のようだ。咲夜は雨粒の残る一等車の窓から汽車のあげる煙を見上げてそんなことをうつらうつらと考えていた。一等車の車室ともなれば人影も疎らで話し相手にも事欠く始末、橋が水没して停車している現状では外の景色を楽しむことも出来ず仕方なしに溜息を吐くと自分の席から立ち上がった。折角の機会だ、いっそこの時間を利用して車内をくまなく見てみようと考えたのだ、長い髪を白い紐でひとつに結い上げて、夏らしい薄い色合いをした露芝の着物の襟をなおすと一等車の食堂を抜けて二等車の扉を開ける。すると夏特有のムッとする人いきれが頬にあたり、思わず扉を開けたまま立ち止まった。冷房設備の整っていない車内に大勢の人が集まればこうなるのは当然か、雨による湿度の高さがそれに追い打ちをかけているようで咲夜は踏み入れるのに躊躇する)   (7/8 00:07:24)


古場田/ビナ > (黒鉄の蛇は轟々と白い煙を吐き出して鉄の道を奔り抜けていたはずだった。)「あ、あっつい……」(鉄槌で打ち上げるみたく揺れる列車は揺れ、大地に根のように蔓延った鉄の道を這う黒鉄の蛇。それがどういう訳か、死んでしまったように停止したまま進まない。車窓の外を一瞥した。内側は、霧がかかったみたいに結露していて、それだけで車内の蒸し暑さが窺い知れる。窓の外は、さっきまで雨滴がドッと窓に押し寄せくっつけば、雨滴は後へ、後ろへ、ズルズルと真横に滑って引き摺られて、流れていったのに、今はどうしてかしら、縦に静かに降りて行くばかりの雨滴達だった。とにかく、この蒸し釜のような環境は、無駄に多い人波が原因だと思い、ビナは人が少ないところを求めていた。ヒューマンジャングルの密林を分けども分けども、蒸し暑さと人の多さは変わらず、大繁盛だなと苦笑も洩らしてしまおう。   (7/8 00:31:21)
古場田/ビナ > そしていつの間にか、前まで来すぎてしまったらしい。ここからは一等車だ。結局、こんなところまで来ても、蒸し風呂なのは変わりなく、骨折り損の落胆印に顔が引きつりそうになってしまうが。そんな時、開くこと侵入すること能わずの扉が開き)「あっ、え」(蒸気機関の吹き出す煙は風に吹かれて揺れ消える。煙の一生は短命だ。2つの白は似ても似つかぬ。揺れる2つの白、白い髪は導かれるように邂逅した。)「あ、えとっ、一等車のお客さん?」(着物、それもこの車両の人間たちとは違う、上質なもの。そして、時が止まったような美しい人間がそこにいた。雪のような白い髪。何十年経った先でも劣化していないなんて断言できるくらいの造形美。声をかけるのも憚れよう、高嶺の尊き華、それが貴方という人間を目にしたときの、産まれ落ちたビナの『言葉』だった。)   (7/8 00:31:40)


骨牌/咲夜 > (逡巡した思考を止めたのは年若い女性の声だった。はっとして視線を遣ればまだ少女と言っても年代の瑞々しい生気に満ち溢れた美しい貴方が其処にいる、ヨズア人であることを示す褐色の肌に3年前の出来事が幻燈機が流す影絵のように次々と脳裏に浮かび上がり、返事をするまでに随分と間が空いてしまうが、二等車の最前席に座った客の鬱陶しいと言わんげな瞳に気が付くと、思わず貴方のほっそりとした女性らしい手首を引いて一等席の方へと戻るのだった)あぁ、申し訳ない。咄嗟のことで……。   (7/8 00:49:47)
骨牌/咲夜 > (貴方の背後で木製の扉がガタンと音を立てて閉まった。批難の視線を向けられたことで思わず貴方を此方の列車に引き寄せてしまったが、ヨズア人が一等車を利用するなどという話は聞いたことがない。しかし、もう一度扉を開いて浴室のような茹だる場所に飛び込めというのは気が咎め、咄嗟に引き寄せた手首を放すと伏し目がちな視線を横へとずらして考えた後に、片手をひらりと一等車の方へと向けて、貴女が付いて来られるようにゆっくりとした速度で食堂車に向かって歩き出す)ちょうど話し相手を探していた所です。車掌から何か言われたらわたしがその分を謝礼として払いますからどうでしょう、素敵なお嬢さん。わたしの暇つぶしに付き合っては戴けませんか?   (7/8 00:49:54)


古場田/ビナ > (そんな産まれ落ちた言葉の余韻に浸るも束の間、なんとこの人はビナの手を掴んだや否や、さっさと一等車に連れ込まれてしまった。あれほどの熱気が嘘みたいに、ここの空気はひんやりしていた。まるで氷に囲まれているみたく、程よい調節された温度に、オーバーヒートしてしまいそうだった思考が冷却されていく。)「あっ、え、えと、え、えへへ……あ、あの」(明らかに設備の金の使い方が異なる内装に、空気の調整が効いた快適すぎるこの空間は、ビナにとっては不安の種にしかならないどころか芽吹いて恵みの水を掛けている始末。跳ねるような動悸が『ここはお前が居るに相応しい場所ではないぞ』と警鐘の役を買っている。あれだけ得意に回る下が、粘っこく動かず、言葉が言葉にならない。貴方の言葉を耳にしても、上の空のように聞き流すような対応を避けられずにいた。   (7/8 01:12:28)
古場田/ビナ > あんなに頼もしく掴まれていた貴方の手がするりと離れ、自由になる。あたりの視線が凶器のように痛い。ビナはついぞ言葉を組み立てられぬまま、貴方は移動を始めてしまったがため、従者のように三歩下がった右斜めからあなたの背中を追うのであった。そして、その次の瞬間、あなたから零れ落ちた言葉に、ビナは)「(え、な、ナンパ………?!もしかして、帝國上流階級の人たちってこう言うのが流行りなの……っ?)は、はあ………」(ビナの思考能力にトドメの一撃。言葉なんてもはや出よう筈もない。こんな経験、産まれ落ちて始めてだ。)「あ、あの、な、名前教えて、くれたら、うれしいかな、です………」   (7/8 01:12:48)


骨牌/咲夜 > あぁ、申し訳ない、ご家族がいらっしゃったかな? この車が走りだす前に汽笛を鳴らして知らせるそうだからね、その時に戻ればいい。わたしは……いや一夜の逢瀬に名前なぞ不要。お嬢さんのことは、織姫さまとでも呼ばせて貰おうか、その方が風流というものだ。(縺れた舌は意味のない音色を綴り、心ここに有らずというような黄緑色の瞳は不安げに揺れる。咄嗟に少女を攫うような真似をしたのだ、純情な乙女ならば動揺しても可笑しくはない。それにうら若き貴女が独りで汽車に乗っているとは考えづらい、親御が心配することを思えばこの鉄の車が止まっている間だけ貴女を独占するのが関の山だろう。事前に断りを入れて食堂車の扉を開けば、陶器の花瓶に生けられた花のにおいが鼻腔を擽った。背後から聞こえる軽やかな歩調と共に紡がれた問いに言葉を詰まらせ、貴女に見えないのをいいことに双眸を黙祷を捧げるように一度だけ閉じた。ヨズア人の貴女に名前を告げる訳にはいかぬ、   (7/8 01:33:05)
骨牌/咲夜 > ヨズアの故郷である島を攻め滅ぼし、ヨズアの英雄である老爺を殺したのは私なのだから。直接的な言葉を避ければ尊華人の言葉になるのだから今日は自国文化に感謝しよう。進行方向とは逆側の椅子を貴女のために引くと、自分は反対側の席に座って給仕の訪れを待つ)なにか飲み物でも頼むといい。織姫さま、わたしはヨズア文化というものに嗜みがなくてね、よろしければ教えてくれると嬉しいのだが、貴女の国にも七夕というものはあるのかな。   (7/8 01:33:24)


木場田/ビナ > (なんだ)「あ、あはあははっ。タナバタフェスティバルだっけ………ん。知ってるよ。風流なこと、するじゃんか。」(ちゃんと、こんな高貴な人でもこの国の人間なんだなあ。)「————じゃあ、わたしも倣って貴方のことをヒコボシ様って呼ぶね。」(ミルキーウェイの向こう岸、二等車からミルキーウェイを渡って、一等車へ。あなたに引かれてやってきた。雨空の下、雨音は二人の初対面で再開の一夜だけの逢瀬。あなたのエスコートで、別世界へとご招待されましょう。尊き華の体現者のあなたの、まさに尊華らしい言葉遊び。言葉を重んじるビナにとって、あなたのその提案は、間違いなくビナの心から不安を黒雲を払拭した。だって、暗い雲が邪魔すれば、天の川は見れませんもの……………そうでしょう。一夜のタイムリミットは、この汽車が再発車するまで。それまでの、短く、なれど『輝ける夜』をいざあなたに期待しよう。願わくば、あなたにしか無い言葉を、もっと探究できますように。そんな淡い願いを、わざわざ七夕の夜に祈願するのは億劫だ。この手で導いて見せるさと、意気込んで、あなたに着いていくのである。   (7/8 01:58:53)
木場田/ビナ > 案内された車両の入り口で、花の香りが鼻腔を擽り、ほんのりと甘い残滓を残して消えていく。そこからは、いよいよ自分には似合わない場所に来てしまったと、内心焦るが、あなたが後ろ盾してくれるというのだ。楯突く者はおるまいて、一先ず安心する。名前は、教えてくれなかったのだが………その言葉には、けじめの様な覚悟を読み取り、ビナはあなたが軍人であると見抜いた。大方、ヨズアの民をたくさん、数え切れないほど殺したのだろう。ビナは目を瞑る。それは、悲劇であり、致し方のない事であると。促されるままに、椅子に腰掛け、その柔らかさに一々声を漏らして驚いて、後から恥ずかしくなるだろうか。)「ヨズアの民は、往古から他国の信仰を盗んでいるからね。うん、あるよ。乙女心を擽る、なんてロマンチックな話だと、ヨズアの少女たちも神話に恋していたくらい。」(まぁ、自分はそうではなかったのだが。昔から、根っからの言葉の探究者。生憎、そういう話を聞いても、素敵な話である前に、それによって生ずる言葉に重きを置く辺り、自覚はあろうとも。)   (7/8 02:01:10)


骨牌/咲夜 > えぇ、そんなところです。今日は生憎の雨になってしまいましたがね、1年にたった1度でも逢おうと約束できるのですから、彼女らは幸せでしょう。(約束すらできない者に比べれば、などとは言わなかった。月日タンタンタンと窓を打つ古典調律のような雨垂れの音色、単調なこの音を孤独と表現する者もいれば、不快という者もいる。だがそれは心の持ちようだろう、同じ時を過ごす相手に光を見出せば憂鬱な音色も華やかな背景音楽へと姿を変える、別珍の椅子は柔らかく二人の体を受け止めて抗議じみた軋み声をあげることもない。僅かばかり目を瞑った貴女の眼差しが瞳の端に映っていたが、それを指摘することはしなかった。この若い娘は年齢よりもずっと賢いのだろう、花飾りをつけ椅子の感触に素直に驚いてみせる純真さを持ちながらも、尊華に対する恨み言を口にすることもなく瞼の下に思いを忍ばせるなんて、同年代の尊華人の少年少女には難しいことだ。それだけ多くのものをこの美しい宝石のような瞳で視通してきたに違いない。   (7/9 20:18:44)
骨牌/咲夜 > 耳慣れぬフェスティバルとう単語はきっと王国のもの。奥から歩いてきた給仕の女性が、貴女の褐色の肌を見て驚いたように目を見張るがなにも言わず、二人にメニューを差し出す。冷たいお茶を頼むと『私たちも』と言わず、『ヨズアの少女たちも』と言った貴女に笑みを溢した)貴女は随分と機転の利く女性のようだ、わたしのことを測っていらっしゃる。その口振りだと、貴女はあまりこの祭りに興味がなさそうに思える。素敵な貴女のことだから、様々な殿方から好意を寄せられてきたのでしょう。何人の彦星が涙を流してきたことやら。もう恋愛は懲り懲りですか?(あけっすけに他国から盗んできたという貴女は此方の出方を伺っているように思えて笑み湛えたまま双眸を伏せる、すると停車した汽車の横を列車がライトを点滅させながら轟轟と音をあげて通り過ぎていった。窓から眩いほどの光が一瞬の間だけ差し込んで、消える。きっと橋の水が消えたのだろう、この車両もそう時をあけずに再び走りは出す筈だ。膝の上に揃えておいた手を見下ろした、惜しいなと呟いた)   (7/9 20:18:54)


木場田/ビナ > 「……………………」(長い沈黙)「………………………」(そして)ㅤㅤ「ㅤㅤㅤかもねㅤㅤㅤ」ㅤㅤㅤ(あなたが誰を失ったかなど、俄かにあなたに巡り逢ったばかりのビナにはあずかり知らぬこと。—————ですが、あなたのその『言葉』の裏は、否応にも見えてしまうものです。だってビナは言葉の探究者。 『彼方の者』に、また逢おうなんて身勝手な約束、するにはあまりに遠過ぎる。 )「……………」(砂時計の滴るみたいに、しがみ付く雨滴は時の流れの通り下へ下へと降る。だけども、この時間がこんなに長く感じるのは、ビナの長考のせいだった。誰かが泣いているような雨だった。 ヒコボシさま、水の演奏はいかがですか。 わたしとの時間が、この雨垂れが楽しく聞こえるのならば、それでいいと思う。 浮かぶ言葉は嫌に湿っている。暗い空気。クライングレイン。 時間は、誰にも雨が止められないように、進んでいく。 あなたは、わたしの事をどう思っているのだろうか。そればかりが気にかかってどうにかなりそうだった。   (7/9 22:17:21)
木場田/ビナ > ヨズア人のわたしに、同情しているのだろうか。それとも敵のように思っていて、しかし自分が少女の手前それを表に出さずにいるのだろうか。 ———雨も、白い煙も、帰る場所はない。雨は雲に戻れないし、煙は火に戻れない。ビナも、同じだ。もう、帰る場所なんて、なくなってしまった——————)「……………。」(それをあなたのせいだ、帝國のせいだと叫ぶのは簡単だ。だが、肝胆なことは、そう簡単なことではないと、ビナは分かってしまっている。戦争とは悲劇であり、兵士に罪は無い。あなたが勇敢に祖国を、守るべき民を守り抜いた英勇である事は、悲しきかな認める他ないのだと————— それを どうしてわたしが罪にできようか。)「—————わっ………あっ、ああ! え、えとね。」(ㅤいつの間にか話が進んでて、素っ頓狂な返事をしてしまう。急いで頭を切り替えて、でも切り替えたところでその話内容が、なんとも縁がない話だったものなので、半開きの口はだんだんと苦笑い形に変えていったか。 )   (7/9 22:17:37)
木場田/ビナ > 「あ、あはははは……恥ずかしながら、そう言った事に、疎くて…………」(小麦色の頬に、薄ら朱を注ぐ。肩を竦めて、恥ずかしそうに指先同士を突き合わせていた。車窓から、強い光が入り込む。手前から奥、光の柱は部屋を一掃してから、レールを滑っていく音が聞こえ、すぐ隣を高速で通り過ぎていく。間も無く、この汽車も発進する事だろう。あなたは、それを踏まえ、口惜しそうに下に視界を向けていた。)「あ、あの…………」(見かねたビナが咄嗟に話を続ける。)「それで、話の続き、ね。わたし………実は———旅をしてるんだ。 貨物車の方に、おっきな羊が乗ってるんだけどね、その子と一緒に旅をしててっ……旅路で摘んだ薬草とかを行く先々で鬻いでるんだけど………」(ああ、もう、ビナの早口が出てしまう。慌てるからだと、自分を戒めながら、)「だから、ヨズアの少女なんて一線を引いた言い回しも、そのせい………。わたし、ヨズアの民だけど、旅をしてるから、そこまでシントウが進駐されたってのも、あんまり実感なくて………」   (7/9 22:17:51)
木場田/ビナ > (そう言い聞かせないと、ダメになってしまいそうだったから、焦っていたし、暗澹な空気を誘っていたかもしれない。)「わ、わたしね。ん、旅をしながら、『言葉の探究』してるんだ。だから、ねっ、ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ———今は、そゆこと全部忘れて、あなたあなたではなく、ヒコボシ様として、わたしはわたしでなくオリヒメとして、あなたの『本当の言葉』を、時間が許す限り聞かせてほしいんだ。ほら、恋バナとか、普通の話を、さ。」(それが、わたしであるはずだから。)「そうしてくれると、すっごく、うん。うれしい、かな………」   (7/9 22:18:04)


骨牌/咲夜 > (沈黙は耳に優しい。物思いに沈む若草色の瞳はいったい何を見ているのだろう、彼女が言葉を失った理由を尋ねるのは簡単だ。謝罪をすることもだ。けれどそんな上っ面だけの言葉を束の間に与えあった所で一体何になるのだろう。腹を空かせた捨て猫に餌をやって満足するような無責任な傲慢さは残念ながら持ち合わせてはいない。ヨズア人の少女に少しの情けを賭けてやることで罪悪感を濁らせるような人間でもない、そもそも先に手を出して来たのはヨズア人である。帰るべき場所を持たない貴方たちヨズア人にとって神島とは文字通り神が与えて下さった約束の地だった。そして、それを与えてくれたシュクロズア、彼の魔術を継ぎ、命を削りながらも鳳頼を奪い取りヨズアの帰るべき場所を作った黄昏のゼペタルはヨズア人にとって正しく英雄だったが同時に――尊華人からしてみれば簒奪者だった。それを今此処で論じてどうなる。貴方が恨み言を言わないように、咲夜も貴方たちの罪を糾弾しない。お前たちの英雄を殺した勝者だと奢って見せたりもしない。貴女が正論を望むなら咲夜もまた応じただろうが、貴女が選んだのは沈黙だったから。   (7/10 23:15:08)
骨牌/咲夜 > 静かに降り頻る雨のような沈黙は不文律として二人の間に存在していた。そんな静寂を破る貴方の鈴を転がすような高い声音は、給仕が去り二人きりになった食堂車に一際高く響いた。雨に蕾が花開くように徐々に広がる貴女の笑顔、はにかんだ横顔を汽車の灯が照らし出して去っていった。その一瞬を、美しいと感じたのは閃きに似た直感で衝撃が背筋を走り抜けた)おやおや、それは……失礼。(疎いという貴女の返事にそう返した言葉はどこか乾いていて、貴女が告げる言葉が左の耳から入って右へと抜けて行こうとする。それを妨げ、放心しかけた魂を此方側に手繰りよせたのはまた貴女の言葉だった。瞬きをして薄く開いていた唇を閉じる。ここで改めて神島の名前を出す貴方はやはり咲夜の見立ての通り、とても思慮深く賢い女性なのだろう。少女という人生で最も美しい時間にありながら、その身に輝くばかりの叡智を秘めた貴女を尊敬して、咲夜は僅かに目を瞠りながら感嘆の息を吐いた。貴女の存在は、ヨズア人は物を知らぬ野卑な人種だと思っていたこれまでの人生観を改めさせるには十分だった、先ほど無意識に呟いた『惜しいな』という自分の言葉が耳の奥で反響している。   (7/10 23:15:29)
骨牌/咲夜 > 給仕の女性がカートを引いて現れ、貴女と咲夜の前に飲み物を置いた。注文を行わなかった貴女の前にも果物のジュースが置かれているのは、一等車で働く女給なりの配慮だろう。咲夜はグラスを手に取り乾いた唇を濡らす。『言葉の探究者』である貴女の瞳に自分は果たしてどう映っているのか、初めて気になった。背筋を伸ばして貴女の肩越しに車窓に映る自分を見る。魔術により延命しているこの命、年代は貴女とそう変わらぬ筈なのに瑞々しい貴女の生命の輝きに比べたらまるで風に掻き消されそうな蝋燭の灯だ、グラスに触れたままだった指先に結露の雫が落ちる)……貴女が話してくれたのだから、わたしもわたしのことを少しだけ話しましょうか。わたしは貴族の生まれでね、双子なんです。一瞬だけ先に産まれた姉は、それは美しく強い女性で、わたしはいつだってそんな彼女が眩しくて、羨ましくて、大嫌いでした。わたしが好きになったものは全部、彼女がもっていってしまうから、本当は好きなものも嫌いだといって自分の本当の心を誤魔化して生きてきた。だから、恋愛というものにも実は縁がなくて、人に好きだと言われてもねぇ。   (7/10 23:15:42)
骨牌/咲夜 > (少しと言った筈なのに唇は饒舌に言葉を注いだ。こんなことを他人に話すのは初めてで本来ならば緊張したっていい筈なのに、自分でも驚きの表情を浮かべてしまうくらいに舌が滑らかに動く。姉ならばこう振舞うだろうと思って動く自分を好きになった相手に心を開くことは難しかった。それは自分ではないのだと、咲夜自身が一番よく知っていたから。一夜だけの相手、仮初の字すら知らせあうこともしない貴女だからこそ話せたことなのだろうか。先に貴方が自分のことを沢山教えてくれたから)おっといけない。……そんなわけで語り過ぎましたが、恋というものには疎いのですが、そうですね、わたしがどんな人が好きなのかというと。(話を本題に戻そうとするとある人の姿が脳裏に浮かんで思わず困ったように笑ってしまった、どんな人が好きなのか具体例をあげてしまえばそれはとある人を形成してしまう。口にするのは恥ずかしくて、でもそんな気持ちが得難い物に感じて、照れ隠しに肩を竦めると片手をそっと腰に差した小太刀に這わせた)   (7/10 23:16:24)
骨牌/咲夜 > 太陽のように明るいひと。どんなわたしでも好きだと言ってくれたひと。そんな人に思われているのなら、それ以上の幸せはないでしょう。貴方はどんな人が好きですか、織姫さま?   (7/10 23:16:32)


木場田/ビナ > 「わあ、わたしなんかに、ありがとね。配給さん、ごくろうさまです。」(ことんと、置かれた果実の甘酸っぱい香りの果汁飲料に、溜め込んだ笑みが滲み出た。なんて美味しそうなジュースなんだろう。きっと、ここの土で育った、太陽の恵みが溢れんばかりの新鮮な果実で作られたに違いない。対して、そちらに置かれたグラスは、先にあなたの唇を濡らした。後に倣ってビナも、液面に口付けするようにみたく味わう。冷たい執拗な甘酸っぱさが舌を跳ねて、幸せだった。こくんと、喉に通して瞑った目を見開いた。揺れる水面、つるりと滑り落ちる雨滴、結露、あなたの心。ペリドットの瞳はストレートに見つめていた。)「……………」(今度はこちらからもと言わんばかりに、あなたは語り出す。体の内に秘めたり締め隠し、誰にも悟らせないようにしてきたであろう溜め込んだ膿を、絞り出すような話だった。『———人の心は、醜いほど強かだ』。かつての母の言葉が蘇る。 『一度己に嘘をつくと、次からはもっと簡単につけてしまう』。それは、あなたになんとなく重なってしまう気がして、でも……………   (7/12 18:38:47)
木場田/ビナ > …『嘘を取り消す事は、難しいようで簡単だ。ビナ、教えてやろう————』それは、『嘘を本当にしてしまえばいいのだ。醜さは泥臭さに変わり、そしていつか泥は新たな芽を生やす』。新たな自分の芽吹き方の教え。 ああ、あなたも、己がそうあれかしと、叫んだのね。『その芽は、もう新しいお前だ。枯らさぬように水を与えるだけでいい。栄養は、醜く臭い泥(努力)にあるからだ。』 そして、その芽は、光と温もりを、『太陽』を求める。)「太陽のような、人………」(ビナは、今まで黙って聞いていた口を、ゆっくりと開いて、零れ落ちるみたいな声量で復唱した。———それは、なんとも、『手が届かない話』じゃないか。あなたの煌々の『夜』を照らすのは、太陽であると。時の止まった氷を溶かすのは、そんな熱であると。あなたが求める理想の人とは、なんて星ほど高く大きな理想なのだろう。でも、太陽ほどの夜を塗りつぶす輝く星じゃなければ、輝く夜のあなたには霞んで見えんだろうさ。妙に納得がいって、ジュースと共に腑に落ちる。有意義な時間じゃないか。美味いジュースに、そうして潤ったことによる、出るわ出るわ言葉の交差。   (7/12 18:39:06)
木場田/ビナ >  ———じゃあ、『わたし』、は? わたしの好きな人とは、一体どんな人なんだろうか。)「わ、わたしかあ………。そだな………」(すこし、かんがえる。)「うーん……」(腕を組んだり)「うぅーーん………?」(首を曲げたり)「んんーーーー………」(眉間に皺を寄せて) 「あ、」 「えと、端的に、言うと…………」 「言葉の重さを、知る人…………かな。わたしは。えへ、うん。そーだとおもう。」   (7/12 18:39:18)


骨牌/咲夜 > (宝石のような美しい少女の瞳は、すべてを見通す。揺るぎを知らぬ真っ直ぐな瞳の下であるから醜い自分を曝け出せた。幾星霜の嘘を捏ね上げて出来上がったものが自分自身だ。成りたいものに成れない苦痛に不遇な肉叢を掻き毟り、自分が嫌いだと叫ぶ声さえ殺して生きて来た、けれど泥中に咲く華があるように、今は藻掻き苦しんで漸く咲いた華を愛おしく思う。咲夜は僅かに双眸を細めて、硝子窓に映った自分の姿に挨拶をした。   (7/16 02:06:02)
骨牌/咲夜 > 三年前よりも少しだけ変化している容姿は、美しさでいえば昔の方が余程華やいでいたが、今の自分の姿の方がよほど愛着をもてる。例え明日には消えてしまう風前の灯火だとしても、その輝きが消える最期の刻までその小さな灯を愛でていたいと思えるのだ。この今の姿が『本当の自分』だから。ある男から捧げられた無辜の忠誠を拒絶した理由も、畢竟そんなところにあったのかも知れない、自分すら信じられぬ幻想の瞞物にしがみつこうとする者の手を取るだなんてあまりにも無責任だ。彼もまたどこかで雨に泣いているのだろうか。貴女が復唱する囁きに、鏡に映る咲夜の笑みは深くなった。自慢したいと咄嗟に唇が開いてしまったが、人に知られることすら惜しくて唇を軽く噛むように噤んだ。身振り手振りをして、痒い所に手が届かないような様子で悩める貴女を優しく見守り、そうして導き出された言葉に成程と頷いた。『言葉の探究』という貴女の言葉が蘇った。)   (7/16 02:06:12)
骨牌/咲夜 > 言葉の重みを知る人……、難しいことを仰りますね。ことこの『言葉が魔力を持っていた世界』においては。ですが、その人はきっと沈黙を愛する人なのでしょう。貴女の沈黙は決して苦ではなかったから(その時、汽笛が再びぼうっぼうっと音を鳴らした。白煙の様子を確かめようと椅子から立ち上がり車窓へと歩み寄れば、しとどに流れ落ちていた雨は止み、厚く垂れ込めた黒雲の隙間から夏の星空が垣間見えた。白い煙が天へと棚引き、帯状に流れる星の大河はやがて海へと流れ込むのだろう。雨上がりの澄んだ夜空に輝く星々の美しさにため息を吐くことさえ憚られ、清々しい敬虔な気持ちが胸を満たした。明けの星は見えねども、我らが神はそこにおられるのだろう。伏目がちな瞼を閉じて刹那の祈りを捧げれば、長い髪を揺らして貴女へと振り返った。)   (7/16 02:06:24)
骨牌/咲夜 > ……残念ですが、出発の刻らしい。わたしは貴女に『本当の言葉』を伝えられたかな? さぁ、もうお行きなさいな織姫さま、貴女はゆかねばならない。鉄の車が大きく揺れては天の川を渡るのも大変でしょう。貴女に星神の導きを、その旅路に幸多からんことを。どうぞ貴女の家族、大きな羊殿によろしく。   (7/16 02:06:42)


木場田/ビナ > 「…………ちん、もく………沈黙かあ………。」(言葉の重みを弁える人間は、その言葉に畏み、寡黙になるという。そう、だろうなと思う。そうか。沈黙も、また言葉に成り得るものか。)「そっかあ………。」(言葉の対面にあるかのような、沈黙もまた言葉なのだろう。言葉に力が宿るこの世界で、唯一、空白の語故に凡ゆる意味を込めることができる万能の言葉。喜怒哀楽のみならず、口を慎み、無言で目に込め、伝えたワードは、時に口にするよりも強い力を持つやもしれない。言葉に宿る力が神の所業である、つまるところ『天命』であるならば、沈黙とは限りなく言葉を使わない、つまり神の力をお借りしない『人智』の力であるのだろう。言葉の重みを知る人とは、沈黙を知る人。そういうことなのか。)「……………」(でも…………。『沈黙を、言葉であると幻視してはならない』。沈黙とは、言葉に似て言葉にあらず。言葉を欲している人間に、沈黙で応えようものならば、それはただメッセージを言葉にできない口下手者と何が違うだろうか。ビナは、ちゃんとそれに気づくことができた。しかし、求道とはここにあり。   (7/17 10:37:28)
木場田/ビナ > 求めることに意味があり、辿り着くことは結果に過ぎない。まだ、この旅の先は長く、そしてあなたとはまたどこかで逢えるはずさ。なんだって、たった対岸の距離だろう。なら、また会える。そのはずだ。車窓から垣間見る雨上がりの夜の天地は、墨にたっぷりと水を含ませたようで、煌々と煌く星の川が超越的に覆いかぶさり、しらしら流れていく。『神は ㅤㅤㅤ———そこにいるようだった』。)「うん………面白い話を聞かせてもらって、ありがとね。彦星さま。それでは、また、タナバタにでも…………」(そういって、車窓から出て行こうとする。   (7/17 10:37:59)
木場田/ビナ > だが、まだやることが残っていた。だから、あなたに聞こえないように、最後にあなたと別れる前に、『そこにいる神に、祈願しよう』。)ㅤㅤㅤ「 『わがみは かみがみにこうちいさきこら』 」ㅤㅤㅤ(だから、神がそこにいるのなら………)ㅤ「『揺籠の微睡』」ㅤ(お許しください。)ㅤ「『嬰児の安楽』」ㅤ(最後に、わたしの願いをどうか。)ㅤ「『孺子の逡巡』」ㅤ(今のあなたを、わたしは今でなくなる前に見ておきたい。)ㅤ「『壮者の猛り』」ㅤ(知りたい、誰よりも。)ㅤ「『老輩の達観ㅤㅤ人間の断片』」ㅤ(見事な天の川を、黄昏の光が一掃する。車窓の窓から、何本もの茜の光柱が、右から左へ車内を照らし。)ㅤㅤ「『夕陽の玉響ㅤㅤ揺らめいてㅤㅤ主は洞観す』」ㅤㅤㅤ(これより、『総てを見通す目』は開眼されたか。)「『———ダー・ニト・ロロイ・ウルヴモズア』」(気づかれないように、そっと振り返り、『あなたの姿を見留めてから』、にこっと笑って、そこから出て行った。もう、黄昏は夜の闇に上塗りされていた。もう元の静かな夜だった。)〆   (7/17 10:38:45)