この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

アスラン&ドクター

星二つ、王都に瞬きて

シロー/アスラン > (王国王都。3年前と比べて遥かに整備と近代化が進んでおり、高台の噴水広場から見下ろす街並みは均等に設置された街灯や何らかの店から漏れる灯りで煌々と照らされていた。活気に溢れるのはいい事であったが、天文学者であるアスランは変わり果てた王都の街を良しとしなかった。)「⋯⋯明るい星しか見えねえな、ここじゃあ。」((精々がデネブ、アルタイル、ベガとその他の明るめの星しか、肉眼では見えなくなっていた。王都の灯りと蒸気による汚染が原因か、見える星が少なくなってしまった夜空を見上げて深い溜息を吐いた。噴水脇の街灯の下で胡座をかいて座り込むアスランの前には、バラバラになった何らかの部品達が散らばっていた。普段王都よりは遥かに星が綺麗に見える帝國に居ることが多いアスランが、王都に居るのは理由があった。王国で作られる分厚く精巧な望遠レンズを手に入れる為であった。バラバラにされた望遠鏡を組み立てながら、ふと手を止めると、何やら辺りを見渡して、自分の周りの地面を掌で擦り始めた。)   (7/6 20:22:27)


ひよ。@ドクター. > 夜は、良い。昼間なんかより、喧騒は何処か遠くへ退き、夜の帳を降りた街には、ガス灯が随所に置かれ、宛らそれは、カーテンを閉め切って蝋燭の炎だけを証明とする自室のようで、外に在りながら、どうにも、屋内のような安心感を覚える。強いていうのならば、時折吹き付ける風が脚を冷やすのが、なかなかどうして厭わしいのと、それと、……。時折、それに乗って、何やらガラクタなどが流されてくるのが、思考を遮って仕舞うのが、本当に、いちいち厭らしい。──そら、未だってそうだ、こつん、何か、硬い金属片のようなものの転がる音がした、とでも思えば、ショートブーツの爪先にぶつかるような感触が伝わってきた。何か、そう思い、私は視線を下ろす。するとどうだろうか、ガス灯の照明を幽かに反射して煌めく、小さな螺子。   (7/6 20:37:55)
ひよ。@ドクター. > これも謂わば、人が人たる照明、即ち科学の進歩、そのものによって生み出されたものであるが、それが、こうして大衆的な場にも広く見られるようになったのが、ここ数年の世界の変化である。私は少し、腰を屈めて、その螺子を拾い上げてみれば、右手の指先で摘み、今度は高くガス灯にかざしてみる。うっとりとするようなモノだ。指先に伝わる、僅かだが私の体温を奪っていく感覚、私の指先が冷たくなり、それとは対照的に、螺子が温まっていく。ああ、なんとも愛おしい。……が、どうにもこの螺子には、持ち主が在るようだ。少し視線を戻してみれば、組み立て途中の望遠鏡を他所に、まだ数個の螺子が残っているように見えるが、何か見つけ難いものを探すように、眼鏡をなくした御老人が手探りに歩くように、そんなイメージで、独り言ちる男がそこに居た。   (7/6 20:38:27)
ひよ。@ドクター. > 私とて、そこまで視力が良いわけではない。だが、この螺子は。「──もし、おはようございますですよ、旅のお方。この螺子は、きっと、貴方のもの。そうではないですかね」私は彼に、猫背で歩み寄り、腰を屈め、同時にずり落ちそうになるシルクハットを片手で押さえてそう声をかけた。空いた手で螺子を相手に差し出し、隈のくっきりとついた瞳で相手を見据えながら。   (7/6 20:38:43)


シロー/アスラン > 「⋯⋯ん、は⋯?⋯⋯あぁ⋯。⋯⋯」((困った、俺としたことが。小さな部品は見つかりにくく、ましては夜。小さいが大事な部品であるアレが無くてはどうしようもない。望遠鏡の角度を固定する番の部分のネジを探していると、ふと自分の足下に街灯が作り出した人影が伸びる。少しの間を開けて掛けられた若い女性の声に顔を上げると、隈の目立つ瞳に目付きの悪い三白眼を合わせ、螺を指で摘んで受け取った。この時間に言う筈がない挨拶に一瞬不思議そうな表情を浮かべるも、寝起きか言い間違えだろうと無理矢理納得した。)「⋯⋯すまん、助かった。こいつは大事な部品だったからな。⋯⋯⋯大事じゃない部品なんて無いが。」   (7/6 20:56:13)
シロー/アスラン > ((ネジを掲げ、 奇しくも先程の貴女と同じようにガス灯に翳す。ネジの螺旋部分が凹んだりなどしていないか一通り確認すると、そのまま流して貴女を今一度見遣り。シルクハットに付随したゴーグルから、ウェンディアでは珍しくない機械に関わる人間なのだなと思い。機械について無知だと思われるのも癪なので最後に当たり前の事を付け足した。明らかに大きさの合っていないマイナスドライバーを無理矢理押し付けて、何度もすっぽ抜けながら回す様相は貴女からすれば非効率にしか見えないだろう。ドライバーはこれ一つしか持っていないらしい。途中で諦めたのか指でネジを直接摘んで回しながら、去る気配の無い貴女を不思議に思いながらも、「邪魔だからどっか行け」とはネジを拾って貰った事もあり言えず。動かない影を視界の端で捉えつつも作業を続けた。   (7/6 20:56:15)


ひよ。@ドクター. > 「ええ、ええ。やぁっぱり貴方のでしたねえ、お礼を言われるようなことじゃ、ないはずですよ」ガス灯を背に、少し腰を曲げたまま相手を見る私の顔、きっと逆光で、隈ひどく、何せ笑みが嫌らしいと、散々に言われていたために(というのも、最早慣れてしまっている。一度泥を被れば、汚れることに怯える必要などは、一切ないのだから)、きっと引かれるか、そう思っていた。が、私の声に反応する彼も、ぷっ。なんて目付きなのかしら、白目に対して、黒目が矢鱈と小さくて、そんな目で見上げるものだから、尚更、たちが悪く思える。尤も、私とて、外見で判断する程度の遅れた思考など、持ち合わせてはいないのだが。「いやいや、申し訳ないですねえ。王都ではもう、あちこちが、それこそ、カーテンを少し開けた暗室のような雰囲気なもので。それは望遠鏡、貴方は星を見るのがご趣味で? それとも、それがお仕事です?」   (7/6 21:12:04)
ひよ。@ドクター. > 小さな螺子に、噛み合わないドライバーを押し付け、力を入れ、だが、ぐいっと外れてしまう。はて、今私のポーチに、工具などはあっただろうかと、左腰に提げた革製の工具ポーチを弄るが、そこに在るべき金属の感触が無い、ああ、そういえば、家に置いてきていたか。もし、それがあったのならばと、貸していたのにと、今思っても、だがそれは仕方がないことだろう。終いには自らの指先で螺子を回し込む相手を見て、怪訝そうな、まるで、見たこともない動物を見るような瞳で、口元に“笑っている”とは言い難い、死んだ笑みを浮かべた。近くにあった適当な高さの段差に、真白い外套が、金色のラインの装飾が入ったどことなく高価そうなものだが、それが汚れることすら厭わないといった様子で腰掛けて。   (7/6 21:12:17)


シロー/アスラン > (優しいな、案外。変な奴にしか見えないし口調も独特だが、悪いやつとは不思議と思わなかった。)「⋯⋯趣味、だな。他人(ひと)から見たら仕事と言われるかもしれねぇが、俺が好きでやってる事だ。」((指でなんとかネジを奥まで回し込み、駄目押しとばかりに先程の大きさの違うドライバーで押し込むと、他の部品も同じように取り付けていき。組み立てられた望遠鏡の角度を調整しつつ、何度か覗き込んだ。ちらっ、と視線を貴女へとやればそこに浮かんでいたのはなんとも言えぬ、何処か不気味な笑み。不思議に思う様子も無く、黙って貴女の表情を眺めてから望遠鏡を地面に固定して声を掛けた。)「⋯あんたも見た所、夜は好きだろう。見てみるか?これなら目では見えない星も見える。」((貴女の瞳を見詰めて、恐らく目の下に出来た隈を見ての発言だろう。少し皮肉とも取れる言葉の後に、望遠鏡を軽く掌で撫で。来いとばかりに貴女を見詰め続けた。   (7/6 21:29:32)


ひよ。@ドクター. > 「なるほどです。ふむふむ、趣味、ねえ……。意外となんとも、ロマンチックな趣味をお持ちのようで」適度な高さかと思い、腰掛けた段差は、思いの外高かった。足が地に着かず、ふらふらと宙を舞う。私は横目で相手を眺めつつ、そう話を聞いた。厳つくて、ぶっきらぼうな口調、柄の悪い三白眼からはとても、想像し難い趣味であって、思わず“ほぉ”と感嘆の声を零す。「なあに、私は夜が好きでなくて、ただ暗所が好きなだけですよ。──なるほど、遂に人は目に見えないものすら、望み、そうしてそれを叶えたと。時代の進歩とは全く、素晴らしいものです。頭の古い連中は冒涜だとか、そんな風に否定するでしょうが、私は人がどこへ、……。いや、どこへ辿り着くのか、気になって気になって、ほんっとぉに仕方がない。……おっと失礼、ひとりでぶつぶつと申し訳ないですね」   (7/6 21:51:58)
ひよ。@ドクター. > それにしても、先程からこの男、私の目ばかり見る。やはり隈、人目を惹くのだろう。私はそういうものかと、だが、人差し指は自らの下瞼を、薄布でくすぐるようになぞっていた。──見てみるか、そう声がした。思考の渦のその中心から、意識を引き戻し、再び視線を戻してみれば、またそこに三白眼。よく考えれば、どちらとも、所謂悪人面に近い。そう考えると、なかなかどうして面白くなり、ふっと小さな笑い声を以って示す。そうして、“これは邪魔になるですねえ”と、シルクハットを取っては近くにそっと置き、そうして望遠鏡の方へと近づいた。   (7/6 21:52:14)
ひよ。@ドクター. > 「……よいのです? まあ確かに、私も他所の望遠鏡は興味あるですが。──そうですか、なら、そのお言葉に甘えるとしますかね」 そう言って、私は前屈みになり、望遠鏡のレンズにそっと瞳寄せる。もう片目はキュッと閉じ、ただ、もう片方を動かして、見えない光を見えるべく、片手でレンズ倍率を調整しつつ。宛ら、其処は宝石箱。ちらり、もう片方瞑った目を開けば、そちらには何もないが、だが、反対の目には、確かにそれが在った。“これは良いものを持っているですねえ”と呟いて、そっとレンズから目を離し相手を見て。   (7/6 21:52:3


シロー/アスラン > (ロマンチックな趣味、とは何だか小馬鹿にされている様な気がして、つい口元を歪めて鼻を鳴らしてしまった。明らかにまだまだ小さな子供のような容姿だが、不健康そうな隈と独特な喋り方、先程の歪んだ笑みと普通とは確かに違う雰囲気を少女から感じていたアスランだが、駄目押しとばかりに続いた貴女の長々とした堅苦しい語りに、普段通りの冷めた瞳を向けていた。特に嫌そうな感情はそこからは感じられない。単に、不思議な奴だなぁ、程度のものであった。少なくともアスランは少女に少し興味を抱いていた。)「見るなら帝國の方が綺麗だけどな。王都が発展するのは構わねぇが、俺達星詠みにとっては困り事だ。」   (7/6 22:17:31)
シロー/アスラン > ((少なくとも目の前の少女はそれに準ずる仕事か趣味を持っているとアスランは踏んでいた。故にあんまり一方的には言わないように一応の注意を払いつつも、望遠鏡を覗き込む貴女がやりやすいように一方後ろへと体を動かした。倍率やピントを合わせてやろうと後ろから手を伸ばし掛けたが、その前に自分から望遠鏡を弄り始めた事に〝ほう〟と感嘆の息を零し。恐らくは賞賛であろう言葉を受け取って、瞳を閉じて思わず口角の片方を上げた。)「まぁな、天文学者ではあるが元々俺はただの星詠み、所謂占い師だ。天文学を修めようと思ったのも、星について深く識りたくて始めただけだ。⋯⋯⋯あんたはあんたで、良く最初から使い方が分かったな。機械が好きなのか?」((口数は多い方では無かったが、ついアスランにしては饒舌になってしまったかもしれない。   (7/6 22:17:35)


ひよ。@ドクター. > 「帝國……ふむ、確かにそうかもです。あそこ、ウェンディアとはまた違った独特の美意識、とでも言うですか、そういうものがありますからねえ……なんとなく、合点がいくような気がするですよ」私はそう切り返し、先程置いたゴーグル付きのシルクハットを手に取る。軽く、埃がついた。白いから、例え夜であっても、少しばかり目立つ。尤も、一部の布が剥がれ、その芯が露わになっているのだから、今更埃など、気にするようなものなどではないのだが。私は、そこまで、洒落た人間ではない。「ほうほう、所謂“占星術師”ですかね、私も以前文献で見たことならあります、です。私は技術者ですから、実際に証明できること以外は信用しませんですけれど、話として聞く分には、充分に興味を向けるに足り得るものだと思っているです。──ええ、そうですねえ。機械というよりは、人の造ったものに対する興味、と言ったほうが正しいのかもしれませんですが」なるほど、人と話すということも悪くはない。   (7/6 22:40:40)
ひよ。@ドクター. > 誰かと言葉を交わすのは数日ぶりか、少なくとも、最後に声を発したのは一週間ほど前、騎士団本部だったか。……どうにもこの男、悪いのは人相だけであるのかもしれない。意外だった。ここまで話すような相手だとは、正直、先程までの私はまず思ってなどいなかった。これならば、ほぼ間違いなく生産的な時間になるはずだと、私はにやりと嫌な笑みを浮かべた。そうして“どうぞ”と言うように望遠鏡の前から退き、ぶかぶかの白衣の袖が手の指先を除き覆い隠しているが、それでも相手に対して指し示した。   (7/6 22:41:00)
ひよ。@ドクター. > 「びっくりしたです? 私も、触ったことくらいはありますからね。少なくとも、この、技術革新の時代の一端を担う存在ですから。──それにしても貴方、私の予想に反して案外喋るのですね」先程まで腰掛けていた段差に、再び、ひょいと腰を下ろせば、やはり足は着かない。色白で、細い不健康そうな脚を組んで、人差し指の第二関節と親指の指先を、自らの顎に添えて、“ふーん”と言うような表情で相手を見据えて。   (7/6 22:41:19)


シロー/アスラン > 「へぇ⋯⋯。そうか。」((望遠鏡から瞳を離した少女の言葉は予想通り。自分の興味を引く話であった。見た目から判断しているがまだ若く、自分のやりたいことなんて決まっていないのも多い年代だろうに、ここまで真っ直ぐ一つの事に興味を持ち追求する姿勢はとても眩しいと感じる。きっとこいつの夢は大きく眩しいものだろう。一人の弟子の顔を思い出し、〝あいつ程では無いだろうがな〟なんてこっそり感傷に浸った。自分も一度だけ望遠鏡に瞳を覗かせてみたものの、自分にとっては見慣れた光景だ。星詠みに望遠鏡は必要無いし、シントで見る星に比べれば⋯⋯。故郷の星空を思い出しながら望遠鏡を畳むと、傍らに置いていた風呂敷に包み。きゅっ、とキツく結び目を作りながらに打って変わって「けっ」と吐き捨てるような表情で呟いた。)   (7/6 23:24:16)
シロー/アスラン > 「余計なお世話だ、見た目で判断するんじゃねぇ。」((最後の短い一言が少し癪に障ったのだろう、見た目で判断することはアスランも往々にしてあるし、今回も貴女が機械作業従事者だと容姿から少なくない判断材料を得ていたとはいえ、つい少し早口で喋ってしまい鼻を鳴らした。望遠鏡が包まれた風呂敷を更に巾着へと入れると片手で肩に背負い。溜息と共に膝に手を付きながら立ち上がると、横目で貴女を見下ろした。)「⋯⋯けど、頑張れよ、お前は眩しい。⋯汝の星に輝きと 良き巡り合わせがあらんことを、だ。」((頑張れよ、と頭を軽く叩いてやろうとしてシルクハットが邪魔をした。完全に子供扱いではあるが、そのままの手で肩を一度叩いた。   (7/6 23:24:18)


ひよ。@ドクター. > ウェンディア人のそれとは異なり、少しばかり彩度の高い肌、それに覆われた厳つい手がシルクハットに触れる。少し汚れ、随所が破れたそれをずり落ちさせるので、私はそれを慌てて両手で押さえ、頭頂部へと戻した。相手は、組み立てた望遠鏡を再び崩し、巾着に放り込んで私に何やら、所謂“祈りの言葉”のようなものを告げた。「──ええ、言われなくとも、ですよ。私も久々に人と生産的な時間を過ごせたもので、ステキな、ですが思いがけないプレゼントでしたよ。さようならです、旅人さん。また、どこかでお会いできるとよいですね」去る相手の姿は段々と霞み、影はゆるりと伸びてゆく。すっと夜風が吹き抜け、髪を微かに揺らす。終いには見えなくなった相手のその姿、去った方角を特に意味もなく、尤も、私がそんなことをすること自体が珍しいが、暫く眺めていて、そうして視線を夜空へと向ける。ガス灯に掻き消され、殆どは見えないけれど、彼の望遠鏡で見た宝石箱が、宛らそこにあるような気がして、私は白衣を靡かせながら、静かに微笑をたたえた。「──いい夜ですね」   〆(7/6 23:38:03)