この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

竜灯&糸依

シロー/竜灯 > (かち、かち、と古びた王国製の置時計が部屋の隅で時を刻む。日が変わろうかとしている頃合であった。普段ならもぬけの殻と化しているであろう、兵舎のとある一室からは、僅かな明かりが漏れる。)『文をじっくりと読んで、久しく筆を取りました。この様な心の籠った文を頂くのは初めて故か、とても胸が高鳴っております。私も正直な心の内を綴らせて頂きますので、暫しお付き合い下さいませ。』(手紙を受け取って、早5時間が経とうとしていた。胡座をかいて机に向かう竜灯は、何度目かの思考の海に潜った。暫くぶりに引っ張り出した、帝都に上る際に買った万年筆を手にし、指先で弄ぶ。足元には何枚かの紙が畳まれて置かれており、四苦八苦しながら続けているのが窺える。ちらりと時刻を見れば、そう遠くない内に日付が変わろうとしている。このような文を貰う事は滅多になく、同じように自分も送ろうと思い立ったがこの有様で。心の内をそのまま手紙にするには難しく、無意識のうちに溜め込んでいた息を吐いて、呟いた。)   (12/18 21:58:30)
シロー/竜灯 > 「⋯⋯そがな所もまた、堪らなく愛しいのう、糸依さん」(筆が止まると、封筒から出された文をこうして広げ、目を通しては時間が過ぎる。その繰り返し。「そがな所も愛しいのう」と今目の前にいれば、抱いていただろう。)『常日頃から遠目で見ていた日陰花がどうにも愛おしく、この手で日の元へ連れ出してやりたいと、手折るつもりでおります。』(⋯⋯と、その一文を捻り出して、竜灯は再度時計に目をやった。日付が変わるまでに渡したかったが、この思いの丈を文字に起こすにはどうやら便箋が小さすぎる。暫しの逡巡をおいて、竜灯は静かに立ち上がった。)   (12/18 21:58:57)
シロー/竜灯 > 「いかん、性に合わん。」(直接口に出してやらんと、やはり気が済まない。糸依さんは勇気を出して手紙を書いてくれたのだ、今頃一人でいじらしくしているに違いない。一人にさせる方が余っ程⋯⋯そう考えれば、らしく無かったな、と思えてきてならない。いざ視線を下げれば着替えるのも忘れて、軍服姿に羽織であった。貰った大切な文を懐に仕舞い込むと、灯油ランプを吹き消して、少し冷える廊下へと躍り出た。)「待っちょれよ、糸依さん」(まこと、放っておけぬ女。大事なことは直接、俺の口から言うてやろう。文では語りきれんことを、時間の許すまで。   (12/18 21:59:20)


清瀬/糸依 > (棚の多いやけに片付いた机と、沢山の物語が全ての部屋。口元まで引き寄せた布団は足先を寒さへと野放しにして、伸ばしていた膝をきゅっと縮めた。いつもなら夢の中へ浸ろうとするのはまだ先なのだが、今日はとてもじゃないが何も手につかない。竜灯に渡した請い文は、一体どうなってしまったのだろうか。読む姿もそうであるが、どうやって返事をくれるだろうか。……そうやってらしくもなく焦がれ、肝心の船を漕ぐ手は疎かになっているのだ。)「………はぁ」(機嫌が悪い羽根気味の前髪と鬱陶しい毛先、せめて見てくれだけでも真っ直ぐなら良かったと熟思う。運動でもしたいものだが、今は人目に触れたくない。心臓でもないぐずぐずとしたものが内部に燻って、また無理やり外側へと引っ張られて頗る気分が悪かった。)   (12/20 13:29:06)


シロー/竜灯 > (兵舎の廊下を、早足に進んで立ち止まる。迷うことなく真っ直ぐ。もはや止まるつもりなど無かった、勇気を出して文を渡した糸依に答えるには、やはり直接、この口で。人目を憚るつもりもなかったが、深夜帯の兵舎はここぞとばかりに静まり返っていた。まるで自分しかいないようだ。それは糸依の部屋も一緒である。寝ていたら起こしてやればいい、とノックもせずにドアノブを回した。鍵は掛かっていなかったようで、扉は蝶番を軋ませて開く。本が読める程度に光を放つランプがぼんやりと映し出したのは、床に敷かれた布団の中で眠る糸依の姿だった。廊下の逆光に映し出されたシルエットは、後ろ手に扉を閉めると、部屋に再び薄明かりの静寂が戻る。床を踏みしめる音が近付いて、糸依の横で立ち止まった竜灯はその場に膝をつき、手をつくと、己の髪が頬に掛かるまで顔を近付けて囁いた。)   (12/23 20:25:07)
シロー/竜灯 > 「すまんの、文をずっと読んじょって、待たせた」(ふ、と口角を上げると、何かを言おうとしているのか、そんな貴女の顔を見て竜灯は小さく頭を振ってみせた。)「おまんを見ちょると、どうにも、愛したくなる。俺はおまんに惚れちょる。俺が手に入れたいと思ったのは、そんなおまんぜよ、糸依さん」(思えば最初から放っておけなかった。最初から惚れていたに違いない。こんな文を貰って、燃え上がらない訳が無い。まこと、ええ女。布団をひらりと持ち上げると、布団を被って糸依の体を跨ぐ。体温が残る布団は暖かく、いつか嗅いだ香りがした。王国の寝台よりも不思議と落ち着く気がしたが、やはり何処か、落ち着くには愛しすぎた。)「今夜は部屋には帰らん、ずっと一緒に居ちゃる。付き合うてくれ」   (12/23 20:25:23)


清瀬/糸依 > (ようやっと自分の体温で暖まった掛け布団に、意識はうつらうつらと夢現を彷徨う。私の伏す揺り籠の柵は、紐の栞を尾にして大人しく鎮座する。形成する輪郭の無くなった意識世界は、脳裏の光景をそのままに再び姿を形成しては消えていく。机上に浮かぶ灯りから背を向け、感覚も遠ざかる中小気味良い音を聞いた。やけに向こうで聞こえた音と部屋を過る影を照らし合わせるまでに、時間がかかったのは完全な不意からか。誰だろうか、と思い当たる人物を考えた直ぐ後、すっかりと私は現に腕を引かれていた。我に帰って、側で止まった者の正体を見ようと寝返りを打ったところで、幕のように垂れる暗緑の髪が頬を擽る。微かな薫も、最早懐かしさすら感じる、あの匂いであった。)「り、ん。え………?」(ふる、と軽く顔を振って前髪を払うと、そこには先程見たそれが何食わぬ、また我が物顔でこの部屋に忍び込んでいた。ただ驚く他にない私であったが、そんなことは竜灯には関係がないのだろう。まさかこんなにも早く返事がこようとは予想していなかったが、事後である今になって思い返すとそれも当然かと思えてしまう。   (12/23 22:48:07)
清瀬/糸依 > 彼の考えること、やるところを私が推し量れる筈が、決してなかったのだ。折角暖まった布団を剥がされ滑り込んだ冷気だったが、すぐにそんなものよりも暖かなものに覆われてしまう。当の返事も幾度となく繰り返されたもので、それでも彼のことだ、直接伝えに来たというのだろう。互いに性に合う方法をとり、それが彼の場合、行動力に長けている故の結果である。)「ちょ、ちょっと」(心構えもなしにこうも浴びせられてはたまったものではない。竜灯が故意でなくとも、また弄ばれるような真似は御免であった。やけに近く感じる距離をどうにかしようと肩を押してみるが、非力であるからか竜灯にその意がないのか私からは何も動かすことができない。照れ隠し、というよりも時間を要していた。起き抜けの頭というのは恐ろしい、一人であったとしても自分を制御できるか危ういのに、竜灯が居ればいつも通りなどまず不可能に近い。回路を組み立てる中、竜灯の意図するところというのを探りあぐねており、次に何もすればよいかもわからずただ見つめる他なくなってしまっていた。)   (12/23 22:48:09)


シロー/竜灯 > (寝ぼけ眼か、朧気に隙間を開けた瞳が見開かれれば、糸依はいつかと同じように意味の無い言葉を紡ぐ。それがまた、予想通りの反応で竜灯は口元を綻ばせる。そういう所も含めて、愛したくなるのだ。この感情を、理由を言葉にするのなら、俺が男だから、なのだろうか。理屈話にはしにくい事だが、今日は抱くよりも、話に来たのだ、糸依と。肩を押されて僅かに身動ぎをすると、前腕を糸依の顔の横について、半身で寄り添うように体を倒しその顔を眺めた。)「糸依さん、文は読んだよ。やけんど、そがな事、ずっと分かっちょるよ。おまんが素直じゃない事も、口をついで皮肉ってしまいがちな所も。思い出すちや、俺は3年前からおまんを誘って、飲みに行ったりしていたぜ」   (12/23 23:58:42)
シロー/竜灯 > (呟いて竜灯は微笑んだ。打ち涼むなんて書かれていたが、どう思っていようと、それでも愛しいから愛す、それに理由はあるのか。竜灯は少し抑えられた低めの声で言葉を続ける。紡ぎ手として)「おまんがそう、自分を卑下せんでも、俺はそがな糸依さんを見ちょる。やき、惚れちょる。おまんはまことええ女ぜ。十分、口で言わんでも、あの文で伝わったよ」(兎角、あんな発露を今更するというんだ、不安なのなら、伝えてやるだけ。魔術師らしく、言霊で伝えよう。)「いつか信仰を失ったと言うとったが、まずは俺を信じることから始めてみればどうだ。お前を一生愛しちゃるよ、俺がいなくなるなんて、守山が津波に沈むくらい、ありえんよ。糸依さん」(そう残すと、ぎゅっと、頭を両手で抱きしめた。   (12/23 23:58:44)


清瀬/糸依 > (僅かな逆光の中に映る姿は、宛ら王国での青写真。相違点を挙げるのならば、寄り添う姿が孕むものが少しばかり神妙であることだろうか。文を渡してから其程刻の経っておらぬ今であるが、彼の抱えることは多いだろう。発露を終え身軽になった私は幾らか思考の隙間も増えて、自己の中ではあるがきちんと回答を、その式を導いたつもりである。余裕というのは大切なもので、いつもならば押し返すような距離感の文字を知らぬ彼の仕草にも、雰囲気というものを弁えた適切な態度をとれているのではなかろうか。)「知ればそれが全てとも、さね限らぬ話。蓋しくも貴殿は、文と言わず私から、聞きたいとは思わぬと仰るつもりで?」   (12/24 23:48:21)
清瀬/糸依 > (自惚れではないが、慕うというものではないにしろ竜灯が私に昔から構ってくれているのは自覚があった。つれない態度というのは私の持つ後天性の本能であり、また彼の望むところであっただけ。元より大きくもない声量を、世を忍んでは更に落とし、上っ面の憎まれ口は日の見張る刻よりもいじらしく放つ。竜灯の浮かべる笑みも柔らかく、目を逸らすよりはそのまま吸われるように煌めきを灯す。ならば私がするべきは、その輝きを絶えさせることのないように掻き消しつつ、焚き付けてやることだろう。控えめに抱えられた頭をゆっくりと胸板に依る。刷り込む言葉を何度だって頭に刊んで、いつもならば言わぬが、と隠してしまうお華も、貴方の為に生けてやろう。)「守山、そう……成る程。当に、私たちが文字の通り命を賭して護りし地。……それも、沈んで欲しくは、ありませんね」   (12/24 23:48:33)
清瀬/糸依 > (これは、歌の返事か。生まれ故郷は、そして己は沈む筈もないと。海に守山が浸るだなんて記すものではない、彼の綴る伝説はもっと陽気に溢れていなければ。私一人では発掘のできなかった含みを竜灯が紡ぐように、差異の生み出すものはいつでも望まぬ愉快と不快を色んな配合で織り交ぜる。)「それじゃあ、一つ託しましょうか。……太古より、人は和歌に様々な含みを持たせました。垣根の向こうに恋を、早朝の景色に趣を、朝露には儚さを見つけました。例えば松山は、決して波が越えることがないことから心変わりの無いことを意味します」(余していた手を竜胆車の背に回し、上へ登らせていく。肩甲骨をなぞるように腕を抜き、首筋を伝って手で輪郭を確かめる。耳を巻き込んで頬を柔らかに挟むと、身を捩り貴方と目を合わせた。ほんの少しの沈黙に笑みを添えて、貴方にしか聞かせぬように互いの額を触れさせて囁く。)「それが、波の越えて欲しくない場所。……朱依の、待つ山」   (12/24 23:48:41)


シロー/竜灯 > 「いいや。今夜は聞きに来たんだよ。お前の声を」(まだ少し固まった糸依の言葉遣いに、誘うような言葉に呼応するように、竜灯は守山訛りを抑え込み、言葉遊びか、歯の浮くような台詞を口にして微笑んだ。布団の下で熱を共にしたせいで籠る暑さに苛まれ、どうにも焚き付けるような、ずっと隠し持っていたのか、甘い誘い文句に胸が高鳴った。中々になれなくて、皮肉屋で、誰よりもいじらしく見える糸依が吐いたとっておきは、酷く艶やかで、麻酔のように感覚を鮮やかにした。胸板に擦り寄るように頭を寄せた糸依に、耳元でふっ、と笑みを零すと、片方の手のひらで何度も、髪を撫でた。糸依の口が、手が動く。竜灯もそれに合わせて、髪を撫でていた手を首から肩、脇腹から腰へ、と緩やかになぞっていった。)   (12/26 17:01:08)
シロー/竜灯 > 「おう、託された。⋯⋯のう、朱依。⋯⋯⋯やっぱり糸依さんの口から聞きとうての。好きやき」(額をくっつけられると、竜灯も同じように耳を挟んで糸依の頬に手を乗せた。次いで出かけたええ女、という言葉を飲み込んで、啄むようなキスを数度、竜灯の方から繰り返して。口を離すと、腰に手を回した。)「そのまま俺に全て、託せるか?糸依さん。強く咲きたる紫は、掻い添ふ花を欲しちょる。⋯⋯⋯そん人は、今夜、一番綺麗に咲いちょるんだ。」(枯れるまで一緒に、とは言わない。満開に花開いた綺麗な人に、惚れてしもうた。ただそれだけ、にいと笑って誘った。   (12/26 17:01:20)