この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

糸依&竜灯

逢瀬

清瀬/糸依 > (冬至が近く、まだ酉の刻にもなっていないというのに辺りは既に暗闇の中であった。ぽつぽつ、と寂しく置かれた灯りと使う人の居ないベンチ。明日は雪が降るのではないかと思うほど空気が針山のように痛い。頬を、心を刺す冷気が心地悪く、羽織の上から心臓の辺りをぎゅうっと掴む。ちらほらと兵舎へ入っていく同僚、または顔見知りを横目に、遠くからでもよくわかる彼を待っていた。王国から帰って来てからはなんだかんだと遠巻きにしてしまって、なんと声をかければよいかも整理がついていなかった。捌け口にしてしまった彼に倣って、直接言えぬならと綴ってみたはいいものの。刻一刻と迫るその時を考えてしまうと、ドキドキ、なんて可愛らしい感情ではなく不安ばかりが募る。左の端に小さく、“竜灯”とだけ簡素に書いた白封筒の上から、震える膝を押さえつけるように擦った。)「……あ。」(昇って消えていく靄の息の向こうに見えたのは、赤々と映える鉢巻。一人歩く竜胆車、彼でもやはり仕事の後は窶れるらしい。遠くに行ってしまわないうちに、と立ち上がり、逸る気持ちに従うままに運ばれる足は、気持ち大股に。)   (12/16 23:03:09)
清瀬/糸依 > 「り、竜灯っ」(呼んだ名前は、距離の割に少し大きすぎたかもしれない。此方に気付いて立ち止まる貴方にあれやこれやとされてしまう前に、先手を打とうと。)「書いた、から…っ。ええ、と。一人の際、読み給ひなむ」(ぶっきらぼうに突き出したそれを、有無も言わせず手に握らせる。差程注目を集めてはいないものの、私の居る此所は人の通り道。これ以上の会話が必要ないと判断してしまえば、そのまますぐにでも去ってしまうだろう。)   (12/16 23:03:11)


シロー/竜灯 > (勤務といっても、哨戒とも言えない見回りに過ぎない日課を終えた竜灯は、男性兵舎へと向かう軍靴の雑踏に紛れて北風に背中を丸めると、ほう、と白い息を吐いた。火津彌さんと董さんはどうなるだろうか、悪いようにはならない筈だが、気になってしょうがない。デートの日はいつだったか、こっそり糸依さんでも誘って着いていってやろうか。⋯⋯さぞ面白いに違いない。きっと戦争も暫く起きないのだ、今のうちに楽しんでおかなければ。少しばかり首を突っ込んでもバチは当たらないだろう。空っ風にほんの少しだけ身震いしながら野暮な考えに思考を落とし込みながら、歩いていた。下を向いていたからか、前から来る人とすれ違いざまに肩をぶつけると「すまんの」と呟いて、今夜のことを考えた。軽く何処かで飲むか、もしくは...適当な奴を誘おうか───)「⋯⋯ん?おぉ、糸依さん。⋯⋯」(後ろから掛けられた声に振り向くと、すぐ後ろにはまず一、二番目に考えていた相手が丁度立っていた。しかしだが、『今日もまこと可愛いのう』と笑ってやるか、『丁度良かったぜよ』と始めるか、開きかけた口をそっと噤む位には、驚いた。)   (12/16 23:44:49)
シロー/竜灯 > 「⋯⋯」(それに目を奪われ、声を掛けられずにいる内に駆けていった背を追い掛けて、手でも握るか、大声で呼び止めるか、普段ならそうしていたが今日ばかりは出来そうにもなかった。手の内に押し付けられるように渡された封筒に視線を戻すと、手首を返してくるりと裏返す。短く書かれた二文字に、ほう、と思わず温かな息を漏らした。)「⋯⋯こりゃあ、まっこと。」(見ればもう、糸依の姿は無い。呼び止めなくて良かった。この一通りの中渡すのは、糸依のことだ、きっと勇気を必要としただろう。本当に、良かった。一つ間違えたら変に声を掛けていただろう。)「⋯⋯ええ女だ」(すっ、と懐に封筒を入れた。どうやら心の臓はいつぞやの夜くらいに高鳴っていた。寒さも何処かへ行ってしまった。頬は弛んでくれなかった。ただ少し、早足になっていた。   (12/16 23:45:01)