この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

火津彌&糸依

徒然草

マリア/火津彌 > 「ほら、上着脱いどけ」(欄間の下にひっかかっている衣紋掛けを取り、卓を隔てて下座に座るあなたに渡しながら少しぶっきらぼうに目をくばせた。此処がどこかと言うと、帝国軍基地から少し離れた個室の料亭。あなたを連れてくるのに、どこぞのうつけと行く時のようなセンベロは少しまずいだろう――なあ糸依。今日の相伴は、少し珍しい相手だった。)「夕飯まだやろ?今日は冷えるさかいに、てっちりでもつつこう。酒も好きに頼んでええぞ、飲めなかったら茶でも構わんから。」(自分の羽織を掛けた後、座布団に座って一息つき、あなたのほうを見た。全く、なんて顔だ。遡ること数刻前、王国から帰ってきてからというものらしくない小さな失敗が重なっている糸依を見かねて、色呆けもほどほどにと注意するつもり呼び出した。が、少しつついてみるとどうもこれは違うといった雰囲気を察し、こうして静かになれるところで話を聞く事と相成った訳である。飲み物の品書きを渡して、それを見ている間もう一度少し頭の中で一人になれる時間をやる間、こちらは女給を呼んで鍋とひれ酒を頼んでしまおう。今日は本当に、底冷えするような寒い雪だった。)   (12/14 16:36:59)


清瀬/糸依 > (彩った障子や艶々とした壁に囲まれた程よく狭い部屋は、まだ少し冷えて体温を撫でるように拐っていく。冷たい指先は衣紋掛けを受け取っては首筋を刺し、露呈した肩は微小な身震いを見せる。今ばかりは火津彌少将の観察眼に、僅かな感謝を込めなければいけないのかもしれない。上司の務めと言われればそうなのだろう、部下を気にかけることも仕事の一環だ。そんな面倒くさいことも水面では首肯しやってのけるから、この人は少将であるのだ。)「……忝き事で御座います」(重ねた足の指を忙しなく擦り、焦点を品書きの向こうに合わせる。焦燥ではなく不安、どこまで彼は察しただろうか。最初は痴話事の注意喚起、恐らく竜灯は全てを話しちゃいない。けれど物わかりのいい少将だ、だからこその此処なのだろう。いっそ話してしまえば楽である、ともわかっていた。)「……然らば、尊華酒を」(吐き捨てるように呟いて、一瞬貴方と視線を交わす。いつぞやの誰だかの言葉を借りよう、酒は口の…なんだ、“おいる”だったか。いっそ悪酔いのせいにしてしまえばいい、貴方の得意分野かもしれないが、今日のところは私に担わせてほしい。)   (12/14 17:02:44)


マリア/火津彌 > 「そうか、尊華酒ならせっかくや、お前もひれ酒を試してみなさい。とびきりに熱く燗をつけて、炙った河豚の鰭をぐい呑みに入れて飲む。酔いが回るのは早いが悪酔いしいひんし、何よりいけるからな。ま、社会勉強や。」(上司権限とばかりに勝手に決め打ってしまうと、それらを女給に申し付ける。襖がすうっと閉じられ、また部屋は二人きりになった。)「……仕事の失敗は気にしすぎるな、お前が一番わかっているやろうし、どれも小さなものや。ただお前らしくもないから……。」(と、そこまで言いかけて口を噤む。まだ、本題に入るには早すぎるかもしれない。)「そや、王国遠征はどうやったか?気晴らしになったか?」(ふっと視線を上げ、火傷で引きつった顔を不器用に緩ませる。竜灯いわく”仲良く”やってきたという事だが……)   (12/14 17:52:20)


清瀬/糸依 > 「…ひれ酒、ですか」(とん、と襖が小気味良い音を立てて更に一拍置いて。酒に通じていないが故に、とんとん拍子に事を運ばれる。こういう面をする時はやけに五月蝿い狐だから放っておこう、と有難い慰めに聞き入る。特別気張っているわけでも、怠慢を憚らせているわけでもないから反省のしようが難しい。心なしか柔らかな座布団の縁をなぞりながら、王国のことを聞かれうーん、と唸る。)「いさや…………。かの地を我らの領せむと存ずれば、些かたのしかりき」(懐かしむように瞳を閉じれば、此処には他に誰も居ないから、と一つ申してみる。目を開けてみればまぁ、驚いているのか怒っているのかわかりづらい。相変わらずの仏頂面では想い人に逃げられますよ、とまでは言わないでおこう。手をひらひらと振っては「此は失礼、やはり戯言にあり」と悪戯に笑っておく。汐らしく静かにしておくよりはこのぐらい悪態をついた方が私らしいというもの。それでも冗談のつき方ぐらいは学ぶべきだったか。)   (12/14 18:22:58)
清瀬/糸依 > 「…いとめづらしきものにありき。而して、煌めきて……。少将殿も訪ひしと伺いましたが、如何に?」(序盤の慰めといい、この人はきっと分かって訊ねているのだろうと予想をたてていた。だったら尚更、あったことなんて己から言うつもりはない。わざわざこんなところに誘ってくれてご苦労なことだが、簡単に口は聞いてやらない。此方だって帰還してからだが色々と聞かせて貰った。美味な飾り付けの寂しい卓を挟んで、まだどこか渋っていた。)   (12/14 18:23:00)


マリア/火津彌 > 「……」(いさや、と相変わらず古めかしい……いや、古式ゆかしいと言うべきか、言葉に続く真意を測りかねて、腕を組んで軽く眉根を寄せた。この少将が件の休戦を仕掛けたと知っていながらなどといかるつもりは毛頭なく、それが仕事だったのだから、性根は物騒なくらいが好ましい。手を汚そうとしない英雄気取りよりもよっぽど信頼が置ける。つまるところ、そんなことはどうでもよかった。測りかねたのは、何よりも糸依の心だ。『我らの領せむ』とは、尊華人としてあそこを手に入れたいと言う意味か?それとも、いっそ尊華を捨てて王国人にでもなってしまいたいという心持ちが冗談半分にまろび出たか……さて、『我ら』とは…僕とお前か、それともお前とどこぞのうつけか、と思いにふけり。)「……ああ冗談か。いやなに、今日はどうやら僕もキレがないようや。」   (12/14 21:03:50)
マリア/火津彌 > (よそう。きっとそこまで深く考えてはいまいと目をつむり息を吐く。火津彌は、はははと枯れた声を響かせ、軽く笑って流した。)「ああ、珍しいと言えば、随分上等な土産をもろうて悪かったな。あれはお前の小遣いやったのに、全く野暮をする。……あの茶器は気に入っとる、大事な客人の時に使わせてもらおう。」(そうこうしているうちに女給が再びやってきて、そばで静かに鍋と酒の準備をはじめた。火津彌とあなたの雰囲気を察しとって黒子のように影に徹しているようだし、気にせずに話を続ける。)「……千騎長殿との対話は少ししくじったかもしれん。……中将ならうまくやったろうにな。かなわんわ、年月ばかりが流れていって……。」   (12/14 21:04:00)
マリア/火津彌 > (卓の真ん中に、具材を入れてひと煮立ちし、もう保温するだけにしてある鍋をどんと置かれ、その側に菜箸や玉杓子と網杓子の入った陶器のガラ入れ。)「それとな、向こうで董とも会うてな……。ま、色々あったが……どこまで聞いている?気にせず話せ、僕ももう隠すつもりはない。近々あいつと連れ立って出かける予定もあるし。」(脇に、ふぐ鰭を炙る為であろう卓上の小さな七輪と、燗をつけるための小鍋がもうひとつ。小皿に鰭と、一合の徳利とぐい呑がそれぞれ二つ、とんすいとれんげが銘々に配膳され、割った竹の器に入った温かいおしぼりも置かれた後、ようやく女給は去っていった。)「……聞き流してくれて構わないが、言っておく。僕はお前を詮索する為に誘った訳やないから、言いたくない事は何も言わんでいいし、聞きたい事があれば答える。まぁ、肩の力を抜いて飲もう。」(徳利ふたつを小鍋に入れて、火のついた七輪の上で鰭を焼き始める。いい香りのする湯気が部屋を温めて、ほっくりと少しぴりついた冷気が解れたような気もした。)   (12/14 21:04:04)


清瀬/糸依 > 「あはは」(愛想笑いというよりもふざけた、なんともなめきった笑いを貴方に向けた。冗談の文字の言うとおりそこまで深くも考えていなければ、貴方を不快にさせたいわけでもなかった。でもよく言うじゃあないか、手のかかる子の方が可愛いと。我らをどうとるか、即ち尊華をどう思うか。きっと糸依ほど献身的な兵もそういなかろう、と自画自賛をして終いにしてしまおう。)「それは何より。……貴殿も何やら、麗しき賜物を。私もいづれ、使い申す所存に候」(役者の貴方と舞台の裏方とを交互に流し見て、不敬ながらに優越感というものを感じた。これこそ、してやったりというものだろう。これだから尊華は面白い。子供心を甦らせて、どうやら貴方が机上の事はやってくれるようだし、とじいっと見守っておく。野暮な感想なんてものは、きっと求めていないだろうよ。)「……へえ、董殿と」   (12/14 22:02:37)
清瀬/糸依 > (今はもう懐かしい、身を削る雨の中の上司の姿。私としては喜ばしくない、固く結ばれたように見える手。フィルムをからからと鳴らしながら、いかにも不思議そうに動く手を見ていた。一つ一つを見たことはあっても、動く様を見たことはない。私が見ていたのはあくまで物の一面、本に挟まれた挿し絵。私が知る誰もかも、皆が知る私。全てを知り得るのはいつだって、崇めるそれ。とまぁ、ここでは邪魔なことか。あまり抑揚を含ませずに流せば、既に聞いた事柄をまた聞かされた。ほわほわと頬を暖める微弱な熱と、丁重が過ぎるような火津彌並びに女給のもてなしとに浮かされていた。)   (12/14 22:02:53)
清瀬/糸依 > 「………じゃ、これも一人言ってことで。案外あの口調、疲れるんですよね。考えること多くて」(仄かな白靄の向こうを凝視、彼の考えるところはわからないが、恐らくは同じ考えであって欲しい。私達は似た者同士であるという前提のもと、言葉は少なめに。多く語るのは美しくない、故人もそのもとに詩を愛で楽しんだのだろう。彼方が腹を括るつもりなら私が応えない道理はない、多分。そこまで落ちぶれちゃあいないし、そこまで毛嫌いもしていない。脇に置いた手提の中からネイビーの紐を取り出し、髪を緩く結いながら続ける。)「それから、火津彌さん。──花が、綻べばいいですね」(「いいじゃないですか、私はああいうの好きですよ」なんて付け足せばいいだろうか?余った髪を指で弄びながら、貴方の反応を幾らか楽んで伺おうか。)   (12/14 22:03:05)


マリア/火津彌 > 「ああ、お互いに武装解除といこう。」(糸依の口調が砕けたのを皮切りに、にっと笑って火津彌も座布団の上にあぐらを掻き始める。僕たちは本当に似たもの同士だ。……兄と妹のようとも形容できるが、不思議と本当の妹を彼女に重ねる事はない。糸依は糸依でありながら、だからこそ親和性を覚える。気取った言い回しと、その裏にある本性。そのどちらも、紛れもなく自分で。そう思っているから、言葉遣いが変わろうがあなたへの印象は大して変わらなかった。まるでお揃いに髪を結いはじめた火津彌とあなたは、見てくれすらもどこか似ている。)「……んあっ?……あぁっ、はは、ええ?董め、あいつ……全く、野暮やなあ。」(七輪の上に載せた鰭を動かしていると、見透かしたような誂いを食らって間抜けな声が出た。)   (12/14 22:36:56)
マリア/火津彌 > 「ま、僕も身持ちを固めたいしやな……董とは色々あったが、やっぱりあそこまで懐かれては放っておけん……いや、すまん。見栄を張ったな。好かれているから答えたいという気持ちに嘘偽りはないが、今は興味のほうが勝っているかな。案外、僕のほうがふられたりしてな。この誘いに董が必ず乗るとも言い切れないし、まあやるだけやってみようと思っとる。」(小鍋に入ったとっくりの底がかたかたと動き始め、充分に温まった合図を出した。おしぼりをあてがいながら持ち、ちゃぷ、と音がして卓に引き上げる。)「ほれ、少将直々の酌を受けたまえ」(冗談めかして徳利の口を向け、透き通った上等な色味をした一献が注がれる。)   (12/14 22:37:06)
マリア/火津彌 > 「……気持ちに答えられないというのはしんどいものやな、糸依。僕も腹をくくるまで随分遠回りした。お前もそういう事はなかったか?あれと随分懇ろのようやが、お前がどうやって口説き落とされたのか未だに不思議やねんな」(あるいは、糸依の方からという可能性もなくはないか。二人で王国へ行くと聞いた時からそういう仲だろうとは思っていたが、竜灯の言葉で完全に確信してしまっていた。妹の心兄知らずといったところだろうか。)   (12/14 22:37:11)


清瀬/糸依 > 「意外ですね、てっきり私は少将は……あー、もっと意地の悪い方を追いかける側かと思ってましたから。……期待しておけとは言いませんけど、私も少々手を貸しますので。がっかりはさせないよう善処しますよ」(水面の泡はほつほつと、同じ様に私の心も揺れている。この人はこんな顔を見せるものだったのか。新たな発見というか、手紙にぼんやり浮かんでいたその貌が現れたという方が近いものであった。軽く握った拳の人差し指で口を覆ってくつ、と咽喉を鳴らすように笑えば、「おやこれは、ありがたやありがたや」なんて溢しながらぐい呑みをそっと差し出す。えらく澄んでいて、ちらら、と光を通すその液体は、くどくなくとも肺の奥を鷲掴みにするような香りを漂わせていた。)   (12/14 23:06:49)
清瀬/糸依 > 「ほんとに、そうですよね。気持ちに答える……。はは、私はその前に、自分できっちり整理をつけておかないと。私、整理整頓とか大嫌いなんですよね、あといきなり覚悟決めるのも」(手に持ったそれを波立たせながら、伏せがちな瞳をすうっと泳がせる。なんだか公認のようであるが、私は一同たりとも竜灯に好意の気持ちなど伝えたことがない。寧ろ突き放して、突っ走って。一人で何もできなくなれば、連れられるがままに放浪していた。くい、とぐい呑を傾けて、言葉を続ける。)「それにですよ?竜灯って、ん゛っん……あー、『おまん、まっこと美人じゃのう!俺と一杯飲まんか、後悔はさせんき、の!!』。……あれがかける言葉全部、冗談だなんて思いませんけれど。……惚れただなんて、わかってても認めたくないもんですよ」   (12/14 23:06:51)


マリア/火津彌 > (このひねくれ者が手を貸しますと来た、明日は槍でも振るだろうか。これはますますしくじれないなと苦笑いしながら、手酌し、炙った鰭をぐい呑に漬けて一口飛び切りの燗をちび、と舐める。ふぐの出汁がきいた辛めの薫風が鼻腔を通り抜ける。匂いだけで酔えそうだ。自分の好みにまで言及されるとは思わず、本当によく人を見ているのだなと感心も覚えた。答え合わせはすぐに解る事、言わぬが華というあなたの専売特許に今夜は便乗して、サラリと流そう。)「整理……覚悟……」(痛切なほどに『わかる!』と言いたくなるような言葉が胃の奥に染みる。自分は少し思い違いをしていたかもしれない。そりゃあ竜灯はともかくこの糸依のこと、『不思議でならない』と思った自分の直感はある意味間違っていなかったようだ。色々あったし、まだあるのだろう。)「うん、うん……ははははは!」(続く言葉に相槌を打ちながら、突然の物真似に笑い出す。糸依が特別うまいわけではないだろうが、あれは癖が強いから、誰がやっても大抵『あの人だ』と解るものだ。こんなに茶目っけを出してくるとは、こいつも中々色を出してきた。)   (12/14 23:37:45)
マリア/火津彌 > 「……阿呆、認めてるのと同じやないか。おーおー、あてられるわ。……でもま、わかるで。気がなきゃどうとでも袖に出来るもんやし、答えは出とる。だがいつだって回答が先に出てしまって、”式”が置いてきぼりになるとな……よく分かるわ。不安にもなるわい。」(式。それは回答と関係を結びつけるための演算記号。それはある定まった調和の形。それは作法であり儀式。色々な意味を持つ言葉が、ぴたりと当てはまる。理屈っぽい僕らは式を解かねば気がすまない性分で、変えようがない病気みたいなもので。糸依は知らない事であろうが、あの朝王国で董にいっそ結婚してしまうかと言ったのも”式”が、覚悟を決める儀式が先にあればと思ったからだった。)「無理に認めんでもええやないか、割れ鍋に綴じ蓋、喧嘩するほど仲がいいという言葉もあるくらいやし。……納得いかんか?」(とんすいにふぐや野菜を取り分けてやり、自分もふうふう息を吹きかけて食べ始める。)   (12/14 23:38:52)


清瀬/糸依 > (らしくなくおどけているうちに、すっかり体も暖まった。わざとらし過ぎるかとは思うが、火津彌と話すことにある種の心地よさを覚えていた。安心感にも似た、私が描く予想通りの受け答え。散々振り回されて、また自分から翻弄されていった身にはこれぐらいが丁度良かった。彼と董との間に何があったとは詳しく知らないが、きっと“伝える”という点において思い悩んでいたのは彼の方。今まで築いてきた人物像というのは、ふと背後から口を塞いで言葉を遮ることがある。けれど一方踏み出したこの人は、少なくとも私よりよっぽど立派で、ずっと必死だ。)「……はは、すみません」(あくまで冗談めかした文句、けれどここまできて尚隠したって、どうにもならないだろう。語られるその言葉の一つ一つに、親近感のようなものを感じる。私達は国民性の模範、尊ぶものも秘めるものも似ていて、足りないものには、興味を交えた好意を抱く。互いは瀬戸物、ぶつかれば割れてしまうし、無機質で冷たいから居心地だって良くない。)   (12/16 17:17:00)
清瀬/糸依 > 「喧嘩ばかりでもないですよ、まず竜灯相手じゃあ私が拗ねてるだけで、只私が稚拙なだけになっちゃうんですもん。……王国に行く前は、そんなつもりなかったんです。ただ恐らく、無条件に人を好むあいつに、乗っかってやろう、なんて気持ちでした。それが、いつの間にか下紐を結びあっていて」(受け取ったとんすいを両手に納めたまま、この際今言えることは語りきってしまいたくなった。本人を目の前にしては晒せないこと、それでも飲み込んでおくには難しい気持ちを、無礼講だと言われたこの場で吐き出してしまう。弱味は見せたくないからつぐむことがあり、切羽詰まるところなど見苦しいから素知らぬふりをする。そんな滑稽な私だが、それも理解者であれば構わないのだ。同じであると見定めた貴方に、まずは私の独白を聞かせてやろう。)   (12/16 17:17:12)
清瀬/糸依 > 「全く無用心ですよね、貰ったものが多過ぎて返すのにも時間を喰ってしまいます。……竜灯は、なんと言ってました?きっと互いに語り合ったんでしょう、男のその辺りは、よくわかりませんけれど。提案だとか助言だとか、大それたことは私めにはできませんが……。“共感”ぐらいなら、あいつにも負けませんから」(今度は熱で先を痺れさせた手で箸を握り、言い終わると春菊を口に放る。それっきりもう語る口は閉じてしまって、相手の顔をまじまじと覗いては瞬き、笑顔を見せる。すっかり喋り過ぎてしまった、悪酔いはしなくとも酒の匂いは堪える。くるくると薫りの渦巻く小部屋に、今までも見知らぬ誰かが秘密を落としていったのだろう。また私達も、決して公にするには恥じらいの多いこの気持ちを、溶かしてしまおうではないか。)   (12/16 17:17:21)


マリア/火津彌 > (二人して結びし紐をひとりして……か。竜灯の言いぶりはまんざら誇張でも見栄なく、確かに燃えた夜があったのか。なんて、女性の部下を目の前にして想像するのも忍びないけれど、それでも仄めかされれば否応にも考えてしまうところだ。なんとなく目のやり場に困って、ふっと糸依から目を外して再びぐい呑に口をつける。後からいくらでも気持ちはついてくるというようなたちの竜灯と違って、糸依は心と体の食い違いに苦しんでいるのかもしれない。ひとえに思慮深さからと言い切れないところも、なんとなく自分と通ずる共感があった。)「竜灯か?お前の事か?……糸依さんは愛しいからのう、まこと可愛い。とそれの一点張り、詳しい事までは聞かなかったな。……僕の事なら、そうやな、楽しめ、と言うとった。董を外へ誘ってみたらどうかと提案したのもあいつや。」   (12/16 21:15:22)
マリア/火津彌 > (まあ、やるだけやってみると付け加えると、はぐはぐと熱々の河豚を食べ勧める。今度は竜灯にも奢ってやるか、いや、三人で…四人で来るのも悪くないか?なんて思うだけの余裕が出てきて、呑気ですらある。)「ところで糸依、お前はほんまに拗ねて、素直になれないだけか?なんや引っかかるきっかけになった出来事でもあるんと違うんか。僕がこうひねくれてしまったのはお前も知っての通り出自もややっこしいし、と自覚があるが。竜灯はそういう話を聞こうとはしてくれたか?」   (12/16 21:15:29)


清瀬/糸依 > 「ふふ、そうですか。……これじゃあ私一人が渋ってばかりの半端者じゃないですか、やだなぁ」(躊躇うことなく、道が悪くとも強引に直進を続ける竜灯。見て呉を、そして振る舞いを変え似合う誠意を魅せんとする董。そしてこの目の前の貴方も、何かしらの覚悟を胸にその日に臨むのだろう。足踏みをして燻っている私は、彼らにとってえらく小さく見えているのだろうか。幾らか緩んだ頬が口の端から締まる感覚に、鰭を沈ませた苦く悪しき薬でちょいとまた肌を溶かしてやる。箸が中々動いてくれないのは、緊張ではなく既に腹が膨れてしまっているから、だろうか。他への配慮だって御手の物とこなしてみせるあれとは違い、私は自分のことすらきちんと躾をしてやれていないのだ。)   (12/17 22:39:59)
清瀬/糸依 > 「………ほんと、少将には敵いませんね」(あざとくちらつかせた尻尾を掴むのが本当に上手い。漸く見せた隙間に手をかけてくれた、という安堵を抱いた。気配りも上手ければ口も達者、おまけに施錠した引き出しを開けるのがお得意ときた。小賢しく、聡く、そしてロマンチストな色の貴方にならば、良いだろうか。)「私も顔だけは良いですから、とっくに薄汚れた女ですよ。特別心が清らかだとか、そんなことは微塵もありません。人を見る目はありませんでしたし、学んだつもりでもまだまだ私は幼稚でした。それでも、竜灯との間にそんなのは些細なことです。彼が嘘を織り交ぜられるほど器用だなんて、まぁ想像がつきません」(──此所迄が、立派な建前。)   (12/17 22:40:15)
清瀬/糸依 > 「……そうですね。綺麗に語れるものではありませんが、可愛い部下の昔話でも一緒に解してみませんか」(貴方はどこまで、気遣いと好奇心を以て私を解剖して魅せるのだろうか?)   (12/17 22:40:25)


マリア/火津彌 > (顔だけは良いですから、なんてらしくない前置きに尻尾を出し始めた糸依の様子を伺いながら、ぐい呑を持つ手が口元で止まる。これだけ露骨に仄めかされれば、彼女が語ろうとしているのは過去の男にまつわる話である事くらいは簡単に察しが付くのも男女の機微と色と欲に囲まれて幼少期を過ごした火津彌であれば造作もなかった。その声色には弱みを見せるような躊躇いこそないものの、無意識かもしれないが謎解きのように練り上げられた言葉の積み上がるいじらしさは、やはり簡単には語りたくない堅牢さを思わせて、立ち込める湯気のように糸依の表情をふわりふわりと覆い隠して見える。なんて不器用で、一筋縄ではいかない人だろう。)「ああ、話してみろ。」   (12/17 23:06:27)
マリア/火津彌 > (”薄汚れた”なんて言うからには、この紅玉楼の月光を目の前にして生半可な話では済まされないぞ。単なる頭でっかちならひっぱたいてやろうか、どこまでも清廉潔白であろうなんて強欲な。そんな気持ちは『全く、仕様がない』と妹に向ける慈悲と共に混じり合い、話を聞く体制を整えさせた。誰よりも理屈と建前を必要とする糸依の事であれば、それも仕方のない事なのだろう。)「此処で聞いた事は、お前が望まん限り誰にも漏らさんよ。」   (12/17 23:06:33)


清瀬/糸依 > 「……話して貰っても構いませんけれど、私の話は人を選びますから」(世に浮き出ることのなかった物語とは全て、共感性の欠如を彷彿とさせる。エッセイ、小説、小論に至るまでそれは変わらぬもの。納得を生めば人は大方好意を抱き、そしてまれに私のような特異が生まれる。そういった卑屈者達は、邪道を好み自らの身を気高き狼とする、つもりでいるのだ。実際には醜い集合体が蠢いているだけで、立派に化けているのは見せびらかした尻尾の一つだけである。)「──“シヰ”という物語を、知っていますか」   (12/17 23:55:33)
清瀬/糸依 > (舌先に転がすぐい呑みの一口をとん、と置いて、語り部は紡ぐ。)「三十年程前に活動していた、とある小説家の一冊です。丁度父の書斎から見つけたもので、私は齢10にも満たぬうら若き幼子でした」(首にかかるブラウスのレースを撫で、第一ボタンを外しては留めてを飽くことなく繰り返す。睫にかかる前髪を顔を振って払い、明後日に視線を向けては咳払いを羽織で塞いだ。)「子供心ながらの、反逆心です。皆と違うことがカッコいいと思う、誰しもが通る道ですよね。……私は、その小説の主人公になりたかったんです。誰にも誉められず、かといって貶されず、それでも気高く己の人生を演じる。徒然と面白味のない毎日を、実につまらなく過ごしていく。私が最初に心から愛したのは、魔術でも國でもなく、魔術師の私だったんです」   (12/17 23:55:55)
清瀬/糸依 > (愛した物語は、五巻で止まっている。丁度17の主人公は万年筆に綴られた最後のフレーズの格好のまま、また人生を動かすことを許されなかったのだ。軍服に腕を通したあの日、私が感じた充実感は登場人物への好意にも似ていた。理想の親であり、その子として誰も見ることのない人生を記していく。私による、私の為の物語は、きっと誰が見たって眉間に皺を寄せてしまうだろう。とうに目は覚めていても、私が退くことはできなかった。)「糸依は気難しくて、傲慢で、卑屈な子です。それを臆することなく示す強さと、それを誇りに思ってはいけない普遍さと、決してヒロインになってはいけない可愛げのなさが必要でした。憧れを模しているうちに、私は簡単に彼女になれたんです。嘘から出た誠、確かに私は私であって、糸依であって。拗れている原因が何かあるんなら、それはきっと私のせいで、彼女のせいなんですよね」(とうに鎖は切れていても、檻に籠る他方法はなかった。今更私を外に出す自信はない、その為の躾なんてものはやっていないのだ。そうしていると、段々と私は理想を己にすり替えていく。   (12/17 23:56:27)
清瀬/糸依 > とうとう一体化できたその暁には、私への恥じらいもなくなってしまうのだろうか。私らしくないなんて相違は、消えてしまうのだろうか。)「生まれだって、育ちだって、私は何一つ苦い汁も飲まずに生きてきました。それでも、世界に蔓延る有象無象は、大半がならず者です。少将から見たら、世の中を舐めくさった愚者も同然かもしれません。それでも下らないなりに、下らないエゴを掲げて生きてるんですよ。……私を糸依と記憶し、そして一生に覚える者も居ました、きっとこれからも生まれると思うと……いえ、そんなことはいいんです。結局私は、己が作った枠組みに囚われて、今更何も覆せないだけなんですかね」(苦い苦い、目を覆いたくなるような珈琲。彼はこれを、どんな顔をして飲んでゆくのだろうか。)   (12/17 23:56:42)


マリア/火津彌 > (彼女の紡ぎ始めた物語は、ある種の普遍を思わせる始まりによって火津彌を引き込んでゆく。糸依は人を選ぶ話だと前置きしたが、理想の仮面に縛られたり、あるいは現実との相違に苦しんだりする事を思えば誰だって自分を重ね感情移入せざるを得ないのではないか。もちろん、火津彌も例外ではなかった。父や妹、とある上司、あるいは貴族。あるいは将の姿をなぞらって生きてきた。それがとっくに自分の一部になっていることだって、糸依はどこかでわかりきっているのだろう。彼女が言う〝結局は〟が本当につまるところ、結局だと思った。自縄自縛に陥っていることだけは解るけれど、心のどこかではそれが糸依だから、と変化を拒んでいるのか。彼女が他と圧倒的に違う所があるとすれば、それをこんな歳まで貫いてしまえる芯のぶれなさだろうか。頑固さ、とも言える。)「……うん、うん。……そうなんやな」   (12/18 21:17:25)
マリア/火津彌 > (彼女の言わんとすることを全て理解する事は難しそうだったけれど、それでも自分なりに何か返さなくてはと腕を組んで押し黙った。糸依が物語を続けるのは、自分を物語から連れ出してくれるきっかけを少女のように待ち望んでいるから……──?例えば真名を呼んでくれる誰か、だとか。)「さあ、どうやろな。自分で自分の名を付けられるというのは、救いでもあるが、因縁やな。……僕の字はな、僕の母親…父が捨てた女の名にあやかってつけた。笑えるやろ?ほんの反骨心やった。」「まぁ、どうでもいいことや。それで」(息を吐き、湯気の立ち込める鍋に蓋をして続ける。)「お前が頑固になる理由。つまりはお前が竜灯に見せている顔は瞞しだと、そういう事か?こんな風に聞くのは野暮だと言うのは分かっている。でもな、いまいち掴みきれんのや。お前がただ膿を出すために徒に言葉を浪費するような人間にも思えん。僕の察しが悪いだけなら、もう少し詳しく聞かせてくれへんか。……顔だけは良いからなんて、つまり、言い寄られた事が無いわけじゃないと言う意味違うか?人を見る目が無かったとか、な。僕はてっきり過去の男の話でも始めるんかと思ったんや。」   (12/18 21:17:45)
マリア/火津彌 > (服を弄ってみたり、髪を払ってみたりどこか落ち着きのない様子であったが、あなたの髪はまだ自分と同じように纏められている。まるで妹のようだと思ったその姿が、糸依を手の届かない物語の登場人物にしてしまうのを火津彌の中で留まらせている。)「〝シヰ〟ならこんな男を愛すはずだと…それすらも委ねようとでもしたか?……なんてな…。上手くいかなかったんやろ?お前のいなかった三年間の事、ましてやそれほど立ち入った事を、僕が知る由もないがな。」   (12/18 21:18:03)


清瀬/糸依 > 「誠、はい。そう…ですね……」(貴方の後ろに見える背景と化した走馬灯の、なんと悲しいことか。いっそ私にも分けて欲しかった、同情を生み出す数々は、抱えた苦痛を知らぬからこその軽率な浅ましい羨望。筋違いだと、失礼だとわかっていても私の埋もれる物語とは明らかに題材が優れている。人生に意味を、物語を見出だす私には、貴方のような読み応えのある積み重ねた時間は、己の身による実現なんてできっこないのがわかっているからこそ輝いていた。)「……どうでしょう。私だけを見てほしいとは思いません、己を飾らずに愛される人間というのは、手を加えずとも完成された人にのみ与えられた選択肢の成れの果てです。だから偽る私を、全てをわかって貰う必要もありません。それを一つの人間として見てくれるなら………。こんなに面倒な私でも、愛らしいと言ってくれるなら。………あはは、駄目ですね。どうも求めるものすら感化されてしまったみたいになって」   (12/19 21:51:39)
清瀬/糸依 > 「私から竜灯には、同情なんてものは求めません。過去の男だって、言い寄られたから承諾したような、煮え切らないものです。そんな私がこの人と自ら選ぶのなら、私から愛を伝えるなら。それでもう、私が示すものはそれで十分かと。──私が少将にお話したのは、同族嫌悪もあるんです。こんなひねくれた考え方、あいつや貴方の想い人にはとても……ふふっ、理解できないでしょうから」(両手で包んだぐい呑の手触りは段々と心地好い冷たさを帯び、項から耳の端にかけて熱が渦を巻く。左腕で口を覆い、すっかり乾いてしまった喉を一つ鳴らした。ここまで言えばもう、惚気のそれである。纏わり付くように髪を撫でた過去の彼は、きっと言うべきはこの人ではない気がした。私が貴方に求めるのは“聞き手”の役割。ついに秘匿することを諦めた私の物語を、一読者として読んでもらうこと。まだ白紙の、それでいてあと何枚あるかなどわかり得ない本文の後ろの後書きに、綴ることの叶わなかった溢れ話をこっそり見せてしまうこと。それだけは竜灯でも、他の誰でもなく、貴方を選んだ。)   (12/19 21:51:43)
清瀬/糸依 > 「……それとも、そんなに可愛い部下のことが気になりますか?よして下さい、あくまで今日はそんな“慰め”なんて持ち込まないおつもりだったんでしょう?そういうのは、貴方のお役目だとは思いませんけどね、火津彌少将」「ちょっとお喋りが過ぎましたね。それじゃあ頑張って、少将の財布を軽くしてやりましょうか、ね」(生意気な妹の悪態、それでも今日はもう、堅苦しいのは無しだ。器の汁に浸った温い白菜を頬張り、思い出したように貴方をじいっと見つめる。今言わなければきっと、いつまでたっても言えぬであろう言葉を、絞り出す。)「──火津彌さん、ありがとうございました」   (12/19 21:51:51)


マリア/火津彌 > (もう取り繕わない糸依の言葉が紡ぐ思いは、反論の余地も助言の隙もないくらいこの世の理であり、何も小難しい事もない、ただ一人の少女のささやかなる願望でもあり。それが余計に、今までそんな簡単な事も言葉にできなかった彼女の鬱屈を思わせた。それが話すにつれ、笑う吐息が混じり、聞き捨てならない皮肉が混じり、惚気が混じって彼女らしさを取り戻してゆくのだから、全く手の掛からない事である。もうすこし世話を焼かせてくれてもよいものを、と思うけれど、『そんなに気になりますか』だとか、『お役目だとは思いませんけど』なんてからかわれてしまっては、一本取られたように笑い。)「……おいおい、よせよせ。冗談でもそないに秋波を送ってくれるな。董と竜灯にどつかれて明日を僕の通夜にしたいのか。……ああ、食え食え。お前はもうちょっと食うた方がええぞ、華奢なのは結構だが。」   (12/19 22:16:02)
マリア/火津彌 > (世辞の常套句のような事を言い、火津彌も呑水に残った野菜を片付ける。ふいにかけられた思いがけない言葉には、驚いても平静を装おって受け止めてやることにしよう。)「……ああ、気にするな。」(そうして鍋をつつきあい、今日こそは酒に飲まれぬまま夜が更けてゆく。店を出る時に放った『そう言えば肝心な事を聞き忘れとった、失敗続きの悩みの種とはなんやったんや?』なんて、とぼけているのか本当に耄碌したのか掴めない一言を生意気な部下はどう思う事だろう。それもまた、貴女の一頁を彩られたし、連れ連れなるままに。)〆【徒然草】   (12/19 22:16:10)