この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

花崗&瑞希

黒助/花崗 > (かつ、かつ。とブーツの音が、遊歩道に敷き詰められた練磨石を踏み締める度に、規則正しい足音に続いて鳴る。そうして一歩を踏み出す度に秋の涼風が頬を撫で、その冷たさに少しだけ身を震わせながら、体が冷えぬように重ねた上着の裾を棚引かせながら歩みを進めていく。季節は秋頃、半ば過ぎ。残暑は秋雨に浚われ消えて、生命が息を潜める冬へと近付き、擦れ違う人々の服装も既に厚手か二枚重ねという寒さに耐える為のものになり、大通りを通りすぎていく馬車の業者が寒そうに身を震わせる。そんな街並みの中を菓子折の入った袋を片手に進んでいく。足取りは軽く、しかし菓子が崩れぬように体を揺らさないように――その菓子折を届けるのは、かつて出会った花売りへのお礼のため。迷わぬように受け取った名刺の住所を探り、近頃行われるある会議のために重なった書類や関係各所への連絡を終わらせてから掴み取った休暇。それ故に今日の服装は半ば普段着となり始めている軍服ではなく、着なれた桜色の和装と寒風避けの外套。頭にはいつぞやの髪留めを着け、気が付いて貰えるように注意した。そうして、冷える街並みをあまたの人とすれ違いながら   (10/22 16:36:22)
黒助/花崗 > ――彼女が営む、花屋の前へとやって来ていた)   (10/22 16:36:24)


愁空/瑞希 > …っぷしゅ、(花の香り満ち満ちる一室、その大気を揺らす小さなくしゃみ。彼女の肺から漏れた空気が花の大気を乱し、揺らし、かき混ぜて。香りの波がゆらりと引いて、戻る頃にもう一度鼻腔を擽る秋の色。部屋に飾った金木犀が一番に、他の花々も負けじと主張する秋の香り。嗚呼。もう花籠で背を蒸らす時期は終わったようね。と心の内で漏らしながら、手元の花に視線を落とす。秋桜。秋の代表花と言っても過言ではないそれは、花屋瑞希においても秋の売れ筋となっていた。丁寧に花を整え、一輪々々に魔術を施す。枯れにくいように、長く愛してもらえるように。その瞳は試合に満ち、静かな部屋に僅かに彼女が作業する音のみが交ざる。その美しさといえば、流石は本業者、といったところになるのか。───さて、暫く。作業を続け、ふう、と一息。不意に、人の気配を店先に感じる。おや。花を直接店で買いたいなんて言う人は、今までにいなかったけれど。もしかして、私の評判も上々、鰻登りなのかしら。と弾む胸を足音に宿し、たん、たん、と小気味良く、店先まで顔を出す。)いらっしゃいませ。花屋瑞希で御座います。……あら?   (10/22 16:50:35)
愁空/瑞希 > (と、顔を出して驚く。店頭に立っていた人物には見覚えがある。あれはまだ、夏の日照りが厳しかった頃。“誰より素敵な貴女へ”として、名刺を渡した彼女だ。姿を認めると、ぱあっと表情に花を咲かせる。ただ、その喜びをそのままに口に出すことは叶わなかった。何故なら、名前を知らないから。まあ、マルマルさん。来てくださったの?嬉しい。なんて言いたかった。僅かに眉を下げてから、取り直したように一言。)あの時の、素敵な軍人さん。いらしてくださったのですね?…ふふ。嬉しい。名刺、お渡ししてよかったです。   (10/22 16:50:52)


黒助/花崗 > (花屋の前は美しく、自然と幸せな気持ちになる。そんな事をかつて部下の一人が言っていたが、正しくその通りだという他ない。店の前、路面に通じるそこには艶やかな花が並び、鼻腔を擽る心地好い匂いは、連日の責務に疲れ、ささくれだった心を落ち着かせてくれた――そんな、いるだけで癒される花屋の扉が内側から開くと、そこからかつて見た彼女が現れた。そして、こちらの顔を見ると驚いたような表情を浮かべ。次いで、花が咲くような笑顔を浮かべてくれた。そうしてから、ふと何か嫌なことを思い出したような、かつての失敗を悔やむように眉を下ろす。コロコロと変わるその表情は、続く大人らしい言葉とは相反して子供らしく、可愛らしいものだった)   (10/22 17:07:16)
黒助/花崗 > お久し振り、瑞希ちゃん。息災なようで何よりだわ…これ、あの時のお花のお礼よ。瑞希ちゃんのお陰で部屋が明るくなったから、受け取ってくれると助かるわ(名刺、渡してよかったですと紡ぐ相手に微笑み、こちらこそ、と返す。あの時、彼女の名前と名刺を受け取らなければここには来れなかったのだ。こちらは軍人であるがゆえ、探せば見つかるだろうが。彼女は数多の民の、その中でも複数ある花売りの一人。探すのも、見つけ出すのも一苦労だろう――故に、その事と、部屋に似合う花を見繕ってくれたお礼と言い、片手に持った菓子折を差し出していた)   (10/22 17:07:19)


愁空/瑞希 > ええ、おかげさまで。……! そんな。いいんですか…?(名前を呼ばれたことに対しまず一つ喜び、お礼にと差し出された菓子折りに視線を移してはもう一つ喜ぶ。何を隠そう、瑞希という少女は偶然にも魔術師たる素質があり、偶然にも魔術が扱えただけの少女。菓子は好物だった。しかしそれを一番表に解りやすく出してしまっては、商人としての瑞希が廃るというもの。一つ間をおいて、問い掛ける。しかしその問いは不必要だっただろう、という事は言葉の後すぐに気付いた。花を売ったあの時も、安くしておいたのに適正の価格を渡してくれた。そしていまも「受け取ってくれると助かる」との言い方を彼女はしている。視線を花崗に移し、「あ、いや」と付け加える。)   (10/22 17:28:25)
愁空/瑞希 > ……頂きます。ありがとうございます。……その様子だと、本日はお休みですか?(やはり何処か嬉しそうな調子は抜けきれないのは、商人としてではなく、一人の少女として相対しているからだろうか。それとも、少女らしさが出てしまうのは、相手が貴女だからだろうか。どちらにせよ、瑞希は以前より砕けた態度を取っていた。相手の服装を見ながら菓子折りを受け取り、空いた手で室内の方を示す。『良かったらどうぞ』とその手のひらは言い、身体を相手の横、やや後ろ側へ半身を入れて中へ入るように促した。それに沿ってくれるかは解らない。相手は軍の方、一般市民の私とは違い、ご多忙なのだ。その中を縫って来てくれたのだから、もしかしたら素直に帰すべきなのかしら。いや、だからこそお茶の一つでもお出ししたい――などと考えつつ、嬉しそうな口調と、その瞳には期待がうっすら。――『お話したいなぁ。あの後、お花はどのくらいもったかな。』なんて。   (10/22 17:28:30)


黒助/花崗 > えぇ。近頃は平和なものでしょう?そのお陰で、簡単に休暇を取ることが出来るの…戦争も今のところは終わったところだしね(差し出した菓子折を見、年頃らしく喜びの感情を見せる可愛らしさに微笑を浮かべる。やはり、彼女には大人びたものよりも、その年齢丈と同じ可愛らしさがあった方が嬉しい。そんな風に思ってしまうのは、彼女だからか。あるいは、かつての自分と重ねてしまっているからだろうか――本日はお休みか、と問う彼女へと、笑みを浮かべながら肯定する。だが、そのあとに続くものは嘘だ。外部に漏らせぬことであるが故に、かつ、彼女を困らせぬために、三日ほど自宅に帰っていないことを隠した。そうして隠したことを彼女に悟られぬよう、言葉の終わりや声音に注意しながらだった)   (10/22 17:45:26)
黒助/花崗 > …ふふ、そうね。お邪魔させて貰うわね(体を横に、片手は店の中へと誘う彼女の姿、そして交差した視線に乗せられた隠された言葉。それを感じ取ると、やはり年相応に可愛らしいと思いながら、微笑みながらお邪魔しますと伝える。菓子折りを渡し、お礼を伝えることは終えたが。それだけで帰るのは少しばかり名残惜しい。それに、彼女自身がそう求めているのならば、断る理由はないだろう――そう、自分自身に言い訳しながら。彼女に誘われるがまま、店の外とはまた違う匂いの、艶やかな華々が彩る中へと足を進めた)   (10/22 17:45:29)


愁空/瑞希 > 平和……と言えば、平和なのかもしれません。けれど、そうですね。軍の方だって、戦争がないからといって仕事がないわけではないでしょうし。気苦労は絶えないことかと。……目の下が、そう言ってますよ。(彼女はただの花屋である。しかし同時に、共感覚の保持者でもある。相手の言葉の一つ一つを愛し、受け取り、味わい、呑み込む。その動作が、瑞希自身が意図せずとも行われる。即ち――嘘はあまり、通用しないのだ。しかしその嘘の味はあまりにも優しく、温かい。自らの悪を恥じ、恐れるが故の嘘ではなく。相手を重んじ、思いやるからこその嘘だ。だからこそ、それが嘘だとは言わずとも、遠回しに伝えた。『そんなことないでしょう。じゃなかったら、目の下にクマなんてできないんだから』。それ以上は踏み込まずとも、彼女なりの気遣いでもあった。「これから忙しくなっても、どうかご無理なさらぬよう。」と小さな声で付け加え、今時点での彼女が忙しいか、忙しくないかは敢えて濁す。   (10/22 18:01:18)
愁空/瑞希 > 相手を部屋の中に誘い入れれば、店の奥、円形の机に椅子が三脚並ぶ場の方まで連れて行き、『座って』と促した。恐らくそこは昔父と母、そして瑞希とで囲んだであろう机。そこに他人を通すのは初めてだった。瑞希が一人店を始めてからというものの、その机の周りのみは開けているが、壁沿いには様々な花や道具が並んでいて、いかにも商売用の家、といった様子。しかしながら花々の一つ一つを見てみれば、全てが瑞々しく、管理が行き届いている。だからこそ、満ちる空気は香りに溢れ、揺らす度に心を満たす。菓子折を机の上に置いてからその花々にぐるりと視線を一周させ、困ったように笑う。)…落ち着かなかったら、ごめんなさい。こんなに花に囲まれては、花に見られているようで落ち着かない……でしょうか。   (10/22 18:01:27)


黒助/花崗 > ふふ、どうやら私の目の下は主である私より、よっぽどお喋りみたいね…ごめんなさい(目の下、と指摘されれば、少し驚いた顔を見せてから諦めたように小さくため息を着く。それ以上彼女が踏み込んでくることなく、ただ心配してくれているだけなのだと理解すれば。慣れないことはしないようにしようと、今の出来事で固く誓っていた)大丈夫よ。寧ろ、昔を思い出して心地が良いわ…それに、ここにある花は瑞希ちゃんの努力の結晶でしょう?それを嫌うことなんて、貴女自身を嫌うことになるわ(相手に誘われ、辿り着いたのは――彼女の、日々の結晶が詰まっている場所だった。円形の机に並ぶ三つの椅子。昔から古い物を見続けてきたがゆえ、審美眼は鍛えられている。故に、その三脚の内二脚、扉から見て奥の物が、使われて久しいことが分かった)   (10/22 18:29:20)
黒助/花崗 > (恐らくそれは、彼女が一人で店を切り盛りしている理由なのだろう。本当ならば三人で、ここで和気藹々と、日々の出来事を語り合っていたのだろう。それが使われて久しいということは、つまり――いや、それを詮索するのは失礼だろう。見つめ続けていたそれから視線を逸らし、相手が申し訳なさそうに言うことを否定しながら華々を眺める。一房一輪、その花弁の一枚に至るまで愛情が注がれているのだろう。全く別の、色合いや匂いの違う筈のものなのに、そのすべてがこの部屋を最大限に輝かせている。そんな輝かしい彼女の努力を、嫌だというだけで否定するのは――絶対に、したくない)   (10/22 18:29:24)


愁空/瑞希 > っていながらも、軍に召集されることなくこうして花売りをしていられるのは、間違いなく貴女たちのおかげですから。(相手に座るように促しながらも、自分も普段自身が使っている席に座る。母か、父か。二人が座っていた席のどちらかを自分で使わないのは、彼女に対する信頼と、心を開いている証でもあった。母を恋しく思い、背を掛けることもなく。父を懐かしく思い、腰を下ろすこともなく。ただ、自分自身がずっと座り続けた椅子に、いつものように座る。今までの自分の軌跡を――それこそ、努力の結晶。その証を誇るように。今までの自分を、独りきりでも花を愛し、花売りとして生きてきた自分を否定せず、後ろにある思い出を振り向かずにいるように。   (11/19 16:07:28)
愁空/瑞希 > 彼女が自身の花を嫌わないと言ってくれた。だからこそ、今まで以上に凛として咲いていればいいのだと、少女は思う。花崗からの続く言葉に敢えて何も言わず、春の蕾が陽の光にあてられて綻ぶように笑う。『ありがとう』との意味を込めて。言葉は雄弁だが、時に雄弁すぎる。共感覚を有し、花に宿る言葉さえ重んじる瑞希。故に、言葉を敢えて重ねないことだって大切だと感じていた。花々に囲まれ、花の匂いを身に纏いながら、花のように笑う。正にその姿は、自分自身さえ花のよう。)   (11/19 16:07:35)


黒助/花崗 > (椅子が三つ、机がひとつ。それが自分の場所であるというように、慣れた動きで椅子に座る様子を、ただ静かに眺めた。冷たくも、寂しくも、楽しくも、暖かくもない。まるでその光景を当たり前のように座る様を見て、彼女は心の奥底で涙を流した――だが、それは単なるエゴである。悲しいから憐れみ、慰めるために表面だけが暖かい言葉を投げ掛ける。それは、自分自身が安心するためのエゴ。それをしてしまえば、彼女は椅子に座った少女と共には要られなくなる。だから、彼女はその思いに蓋をして。それでもなお消せずにいた心の刺に逆らえず、懐から取り出した鉱石を幾つか放り投げると。座れる程度の大きさになるように会わせて変化させていた』   (11/19 16:37:49)
黒助/花崗 > ……ふふ。そんなことはないわよ?私達はただ、貴女達が静かに、平和に生きていられる場所を作っているだけ。その場所で生きる糧を、方法を見つけたのは貴女達自身よ。貴女風に言うなら…『花が咲いたのは、その花がそこで咲きたかったから』。かしら?(貴女達のお陰だと、そう言ってくれた彼女に笑みを向ける。彼女のその言葉に、見せてくれる笑顔で仕事で疲れた心が癒されるのを感じる。花屋の娘であるがゆえか、それとも元来のものなのかはわからないが。彼女と話としているだけで傷ついた心が癒されるのだ。今日の休日を取り付けるために奔走した疲れが、彼女と話すだけで溶け落ちていく――だからこそ、くすり、と笑顔の花を咲かせ。軽口を返すことが出来たのだろう。先程までの疲れたままであれば出来なかったこと、それが、目の前の少女と話しただけで、簡単にすることができたのだ)   (11/19 16:37:53)


愁空/瑞希 > わ、……素敵。それが、軍人さんの魔術。(小さく呟き、相手の魔術に花浅葱をまあるく見開く。自分以外の人間が魔術を使う様など、あまりにも見かけない。咲きたい場所で咲いた花は、平和の土壌で生まれ、育っているから。しかしわざわざ魔術を駆使して自らが座る椅子を精製させるなど、普通に考えれば二択の考えが浮かぶ。一。瑞希が椅子を明け渡すことで信頼を示した。その裏側を突くように、心を閉ざした事を示したか。二。彼女の両親が座っていた――と考えられる古びた椅子に腰を下ろすことを悪く思ったか。常人ならばその二択、どちらかを巡ってくるりくるりと思考を回し、悩み、疑心を抱えるかもしれない。しかし。瑞希はどちらでもなかった。相手の選択に対し深く思う事はしない。『あの軍人さんが誰よりも真っ直ぐだということを知っている。だって、私の花に”丁度”のお金を払って、お菓子の差し入れだってくれたから。』名前も知らない。軍の方で、素敵な貴女。それっぽちの事しか、知らない。それでも瑞希は誇りを持って花を売り、自信を持って人と話す。   (11/19 17:00:52)
愁空/瑞希 > そんな自分が花を売り、あの手紙を渡した相手が、如何して私を想わずそんな行動を取る筈があるのでしょう。)あら、お上手。確かにそうかもしれません。私だって、もしかしたら。……軍の方、なんて呼ばれる未来があったかもしれませんね?(全幅の信頼。相手と、自分の眼に対するそれから紡がれる言葉は、冗句を混ぜて、ただ場を和ませた。疑うことも、気を悪くすることもなく。あまりに無垢に、彼女の顔が明るく咲いた事を喜んだ。笑ったからと言って、睡眠不足が解消されるわけでも、彼女が激務の中を生きることから解放されるわけでもないが。それでも、今この一瞬、玉響の中で、花の香に癒されて、貴女が作った平和の土地を感じてほしいと、ひそやかに願う。)   (11/19 17:01:05)


黒助/花崗 > えぇ。ただ、ここで見たことは他言無用でお願い。そうじゃなきゃ、少し危ないことになるかもしれないからね(複数の鉱石を変化させて作り出した簡易的な椅子。それに座りながら人差し指を唇に当てると、片目を閉じながらそう言った。軍人の、それも大将クラスの魔術となると既に多くの人は知っているだろう。それでも、それを目の前で見た。もしくは近くで見たことがあると回りの人に言うと、最悪政治交渉用の人質に使われる可能性もあるのだ。国の闇を、人の本当の恐怖を知らぬ少女にそんな重荷は背負わせたくない。故に、可愛らしく両の目を見開いて驚く少女にそう言ったのだ)   (11/19 17:21:56)
黒助/花崗 > そうかもしれないわね。でも、私達の仕事は凄く大変だし。中々プライベートな時間を作るのは大変なのよ?(目の前にいる少女の、今よりも成長した彼女が自分を大将と呼び敬ってくる――それの想像がつかない。この少女は彼女の頭のなかで花屋の少女として固定されているし、それ以外のなにかをイメージすることも出来ない。花に囲まれ、やってくるお客さんに花のような笑顔を向ける。そんな、平和を彩る一輪であるという姿しかイメージが出来なかった。だからだろう、こうして軽口を交わしても嫌な気持ちはなく。寧ろ、これからもずっとそうしていたいと思えるのだ――とはいえ、軍人はかなり厳しい仕事なので。なったとしても花を育てるのは難しいよ?と、遠回しに釘を刺していた)   (11/19 17:21:59)


愁空/瑞希 > ああ。でしたら。ただの町娘の魔術なぞ、人質にもならないでしょうけれど。……――"出でませ、息吹かせ、芽吹かせ花よ "――(悪戯気に言ったその言葉の裏に隠れた重みに気付き、即座に行動に移す。魔術とは、信仰の形。魔術とは、自分の言葉の色そのもの。それを晒すというのは力の誇示であると同時に、大切な信仰の形をそのままに外に出しているということ。場合によっては個人の特定はおろか、魔術の形をみたこと、それ自体が弱点ともなり得る。ただの花売りでも、そのくらいは知っていた。机の横、古びた棚から一つ、種の入った袋を取り出し、中身を自身の手のひらの中に転がす。言葉を折り重ねながら手にした種を、相手に"見てて"というように、視線を遣る。彼女が見せてくれた魔術は、他人に言わない。そして、自分自身も、信仰の形を見せて示そう。自身の相手に対する『誠実』を。)――萌ゆるは『誠実』。 咲けや空へと、幾重に積もれや ひととせよ』   (11/22 13:50:28)
愁空/瑞希 > (彼女が手に取った種は、君子蘭という花の種。11月は本来種の保管時期。開花は春先。にも拘らず、彼女の手の内で君子蘭はぴくり、と胎動する。――それどころではなく、種の間から芽を覗かせ、見る見るうちにその芽を伸ばす。細い葉が伸び、更に伸び。次第に葉は太く、色濃く。根は伸び、まるで彼女の手のひらが土だとでもいうように、根付く。葉の間から蕾が生まれ――花が咲く。オレンジ色の可憐な花。土も、水も、太陽さえもない。たった一つ、言葉という栄養だけを糧に、季節外れの花が咲く。これが彼女の信仰、そしてその形。言葉を以って、花々を咲かせ、時に枯らさず、時にその色合いを強く。自在に花を、植物を操る力。これを人前で詠唱するのは、見せるのは。初めてだった。)   (11/22 13:50:36)
愁空/瑞希 > ……私が、魔術師の家系の生まれとは、以前お伝えしました。けれど。魔術を私も使える。なんて……お教えしていませんでしたよね。これが"私"です。(自分の魔術を、目の前で見られる。これがどれだけ、普段花売りとしてしか生活していない少女にとって恐ろしいことか。ましてや、相手は素敵な女性といえど、軍の方。魔術に精通し、生業としているであろう方。先程までの笑顔が翳り、緊張した様子を浮かべる。)……なので、軍に入ったところで、精々薬草類と果物を絶え間なく用意できることくらいしか利がありません。きっと、私は。ずっと花売りですよ。(手に平に根付いた君子蘭の根を解きながら、忠告、とも取れる言葉に返す。そう。自分のこの魔術では、戦えない。自分が誰より解っていた。それが良い事か、悪い事か。判別は付かないけれど、きっと、今このひと時だけは、良かったのだろう。)   (11/22 13:50:46)


黒助/花崗 > ――(花が先、運びて芽吹く、万の種。名のあるとある歌人が残した唄。それを思い出したのは今、彼女の目の前で手に乗せた花を、魔術でもって咲かせて見せた少女の様子を見たからだった。以前、彼女から伝えられた魔術師の家系だということ。それを聞いてもしかしたら、とは思っていたが、現に見せられてしまえばその想像が現実であると知った。知ってしまい、開いた口が塞がらなかった――だが、それは彼女が魔術師だったからというだけではない。少女がその秘密を、たった一人で抱え込んで生きていたこと。それが、彼女に大きな衝撃を与えていたのだ)   (11/22 14:24:39)
黒助/花崗 > ふぅ…うん、安心したわ(そうして溢した言葉は、目の前の少女に向けたものではなく。自分自身に向けている言葉だった。魔術とは、それすなわちその人自身の弱点を晒すというもの。何が出来て、何が出来ないのか。原理は何か、必要なのは何か。それを理解することは、大きなアドバンテージになるのだ――既に誰かに話しているかもしれない。誰かに見せているかもしれない。だとしても、秘密というのは誰かに話さなければ。見せなければ積もってしまう。そして、積もりすぎた秘密は、その秘密を持った人間を押し潰してしまうもの。この少女がそう簡単に潰れたりはしないだろうが、こうして見せて、話してくれた。それが、彼女にとっては凄く安心できることだったのだ)   (11/22 14:24:41)
黒助/花崗 > それならそれで良いじゃない?平和なままで死ねるなら、それは人にとっては幸福なものなのよ(戦いを知らず、静かに暮らすのもいい。戦いを知った上で、そこから離れて暮らすのも構わない。だが、その最後は幸せでなければならない――死とは、終演とはそれ即ち始まりであり、生でもある。その人が死んだことで、新たな人の物語が始まる。そうして始まる命があると同時に、終わる命も多数ある。生と死は正反対にして表裏一体。何れか来る確実なもの。故にこそ、この少女の最後が。そこに至るまでの道のりが幸せであれば、それだけで救われる人もいるのだ――自分のように)   (11/22 14:24:43)


> そうではあるのでしょうけれど。……魔術師なのは、父なんです。今は、母とウェンディアに。――時折、私だけがこうして夢を追い、花を愛で、陽の光の元暖かに育っても良いものか、と。(手に絡みついた根をスッカリと取り終え、君子蘭を片手に抱く。己の掌を見つめ、僅かに蘭の根が千切れて残ってしまっているのを認めた。それは、今の自分に納得し、誇りに思って否がらも、僅かに疑問を残している自分のよう。惜しみなく咲き、愛される。一方、心の底で、父や母を想うが故に、積もる不安。自分が花屋として大成していくのは、嬉しい。けれど、戦いを望みながらも、魔術の才に欠けるからと道を諦めた町の人間も目にした。――これは、才能の浪費なのだろうか。不安の種が芽吹く。芽吹いたところで意味を為さないことは解っていながらも、瑞希とて、少女であるがゆえに。)   (11/22 14:42:11)
愁空/瑞希 > (一房、はらりと肩から髪が流れ落ちる。僅かに瑞希が目を伏せ、胸元に咲く君子蘭に顔を向け、指先で花を愛でた。今が冬に差し掛かるとも知らず、瑞希の言葉を春告げと思い咲き誇った君子蘭。彼女が魔術を施せば、春先までなんともなしに咲き続ける。それは一種の冒涜か。問われたら、難しい。思惟の海を巡り、ふう、と一つ息を吐いた。――らしくない。よく花を売り、よく笑う。それは父こそ望んだ事。望まれた命、望まれた生き方。望まれた、在り方。その全てを叶えて、自らも幸福で。それの何を、案じることがあるというのだろうか。)なんて。たまに悩むんですよ、私も。……ふふ。(冗談です、というように笑い、もう一度顔を上げる。心の揺らぎを他人の前に見せるのは、珍しい。というのも、普段は花売りとして生きているからか。只、今だけは。今、この一瞬は。一人の少女・瑞希だった。)   (11/22 14:42:17)
愁空/瑞希 > (目の前の名も知らぬ軍の方は、いつ見ても凛々しい。その言葉はいつでも力強く、しかし奥底には柔らかな優しさがあり。平和とは遠く、守る者として生きるからこその強さ。女性らしさと、強さを兼ね備えた美。見た目に宿らぬそれらの美しさは、こうして彼女と言葉を交わすごとに、一際目立っていく。陽の光を宿した宝石のような煌めきと、意志の硬さ。瑞希にはない、また別の美しさ。目を奪われて、寄り掛かりたくなるその強さに、ほんの一瞬――甘えが出た。)   (11/22 14:42:23)


黒助/花崗 > …そう(父と母。かつてこの一室で団欒を過ごしたであろうその二人に、彼女はひとつ思想を向けた。貴殿方は、この少女を残して旅立つとき、どんな思いだったのですか?と――だが、その思想に返される思いも、はたまた感情も無い。彼女の魔術は鉱石を、宝石を変化させるだけ。人の感情や思いを受け取り、理解するものではないのだ。だからこそ、彼女が顔をあげるのを見て、耽っていた頭をクリアにして、その考えを払拭した)   (11/22 14:56:36)
黒助/花崗 > そうだ。貴女に一つお願いしたいことがあるのだけど…(クリアにした頭を平常に戻していると、ふと一つ良い案を思い付いて訪ねてみる。今日来たのは菓子折りと礼を伝え。息災かどうかを、あの花がどうなっているかを報告するためだ。そうして目的を終えた今、自分は彼女と雑談することぐらいしかやることがない――ならば、少しばかり面白いことをしても良いだろう。無論、危ないことはしないつもりではあるが)   (11/22 14:56:39)


愁空/瑞希 > お願い? ええ、ええ。なんでしょう。他ならぬ貴女の頼みです。なんなりと。(変わらず空いた二つの椅子、そのうちの一つ。母が座っていた席に、花を置く。少女の母は、同じく花売りだった。自身が立派に父のように魔術を使い、母の跡を継いだのだと示すように添えられた君子蘭。その花言葉は誠実。他に、『高貴』、『情け深い』。母は正にそのような人だったと想いながらも、置いた花から目を逸らす。見たくない寂しさから逃げるためではなく、母への成長を示して、今、新たに得た友と話すために。花浅葱色の瞳は強く輝き、先程までの悩みを払拭していることを示す。ほんの一瞬の甘え、揺らぎ。それでも一つ、詰まった息を吐き出せた。それだけでも瑞希にとっては、十分な休息だったのだろう。ちらり、と菓子折りに視線を遣り、もう一度花崗を見据え。頼みってなんだろう。)   (11/22 15:08:05)
愁空/瑞希 > もしかして、お花ですか? お花、手入れします…?(花売りとして生きていた少女は、良くもも悪くも花しかしらない。この世の明るいところで生きてきたから、なのか。能天気、ともいえるほどにふわふわとした口調は、仮にも尊華の女らしくはない。花に関して何かあるのだろうかとの期待は身体に現れ、どことなくそわそわとして様子。そしてまた菓子折りをちらり。――恐らく。彼女の頭の中は二つ。頼みって何かしら。あのお菓子、そろそろ食べたい。――似合わぬ落ち込んだ様子は何処へやら。平和の花には、矢張り悩みは似合わず、そして悩むことも長続きしなかったらしい。)   (11/22 15:08:12)


黒助/花崗 > ふふ、大当たり…実は、最近少し気になっている子がいてね?勿論、恋とかそういうのじゃなくて、純粋に気にしている子よ(頼みたいことがあると聞けば、花の事ですかとこちらの確信に近いことを訪ね返してくるのにクスっ、と微笑んでしまう。やはり少女であろうと花屋の一人娘、花に関係することには鋭いらしい。とはいえ、先程あげた菓子折りに興味が向いている辺り、まだまだ青いようだが)   (11/22 15:19:48)
黒助/花崗 > その子を少し、元気付けてあげたいのよ。両親がいなくて、ずっと独り暮らしを続けている子。私も偶然町で知り合ったのが始まりだったのだけど、漸く休暇をもらえたし、専門にしている人にどんな花が良いのか教えてほしくてね…良いかしら?(頼みというのは簡単なこと、最近知り合ったとある子を元気付けるため、おすすめの花を教えてほしいというもの。特に難しいものでも、大変なものではない。指定も特には無いため、この少女がお勧めしてくれるものを渡すつもりなのだ。それで元気になってくれるのなら幸いだけどね、と最後に付け加えると。椅子から立ち上がりながら魔術を発動し、元の鉱石の大きさに戻していた)   (11/22 15:19:50)


愁空/瑞希 > ふむ。……それは。――……いいえ。なんだか親近感の湧く方ですね。貴女にそんなに気にして頂けるなんて、きっと、そのお方は幸せだと思います。今までより、一層に。(そのオーダーには、心当たりがあった。しかして、口に出す事は野暮というもの。くすくすと笑いながらも、横の椅子に置いた君子蘭を撫でた。もう一度だけ、心の中で話しかける。――『見てて。私ね、みんなのために、綺麗なお花を選べるから』。彼女が立ち上がると同じタイミングで、自身も立ち上がる。家族と囲んだ席から立ちあがる。なんの暗喩か、それとも、純粋に選ぶ為に立っただけか。一度くるりと背を向けて、中庭への鍵を手に取った。)――こちらへ。いらしてくださいな。花――というよりは、木。ですが。枝を手折って差し上げましょう。私のとっておき。私そのものでありながら、私の魔術が最も美しく咲いています。   (11/22 15:37:03)
愁空/瑞希 > (そういって、ちょいちょいと手招きをしてみせる。中庭に人を招くのは、初めてだった。それが見える窓はカーテンで閉め切られ、そも、中庭という存在を感じさせない。それこそ秘匿。彼女の心の奥まったところ。彼女の魔術、その神秘の体現がそこにある。それを見せるという事は、先程目のまえで魔術を見せた比にはならない程の賭け。生唾を飲み、一息。中庭への扉に鍵を差し込み、回す。かちゃり、と鳴った音は開錠を示した。あとは扉を押し開けてしまえば、彼女の秘匿は破られる。)――先程の、貴女ではないのですが。此処で見たことは内密に。……必ず。   (11/22 15:37:09)


黒助/花崗 > 木……?(椅子から立ち上がり、何かを棚から取り出した少女に誘われるがままに近付く。もしや、秘蔵の花々を見せてくれるのか。そんな期待で胸を踊らせ、次の少女の言葉を待ち――木、と言われて動きを止めた。無論、枝に花を咲かせる木ぐらいは知っている。桜や金木犀と言った有名なものは実際に見たことだってある。だが、まさかそれをおすすめされるとは思ってなかったのか。嫌な気持ちではなく、純粋に驚いて動きを止めた)   (11/22 16:00:55)
黒助/花崗 > …えぇ、分かったわ。必ず、墓場まで持っていく。必ずね(しかし、動きを止めていたのもつかの間。直ぐ様ゆっくり息を吐き出すことで全身の無駄な力を抜けば、小さく咳払いをして小恥ずかしさを暈していた――そうして、少女に連れられるがまま。何処かへと通じるドアの前で立ち止まる。ここから先に何があるのか、それはこの少女だけが知っている。この少女は、彼女に危害を加えることはしない。少なくとも、誰かが傷つくようなことをしないのは、少し話した自分でも分かっているのだ。だからこそ、彼女が秘密にしてほしいというのなら、墓場まで持っていく。そのつもりであると、相手からの言葉に返しながら伝えていた)   (11/22 16:00:57)


愁空/瑞希 > (彼女の返答は、想像していたものより堅い誓いとなって帰ってきた。信頼は、結ばれる。結い連ねた言の葉の種、それらは積もって茎を伸ばす。細々とした、小さな信頼の欠片。寄り集まって、絡み合い、一つの幹を築いたとさえ言える。どうして彼女が、この信頼を崩して燃やしてしまうと言えるのでしょうか。いいえと否定するように、重い扉を開け放つ。――刹那、部屋に流れ込む風は、間違いなく霜月のもの。足元を冷やし、凍てつく冬を先取って運ぶ。ギィ、と扉がきしみ、全てを明かす。中庭を。秘匿を。すべてを。そこにあったのは、中庭をぐるりと囲む背の高い木々と、それに隠れるように、隠されたように咲き誇る、ハナミズキ。周囲の木々の枝葉の隙間から差し込む陽の光を、ほんのわずかに零れ落ちるそれを受け止め光るそれは、本来の開花時期とは大きく外れている。春の花であるはずなのに。葉の一枚も落とさず、たった今咲き誇ったばかりだとでも言うように瑞々しい花を付けたそれの、なんと異様なことか。)   (11/22 16:27:13)
愁空/瑞希 > ――もう、一年とすこしは。ずっと咲いています。咲き続けています。幼かった私が父にせがんで、発芽させてもらった木です。それからしばらくは自然に育って、父と母が私を置いて出て行った頃に、私が成長させ、花を咲かせて――時を止めました。成長を促進する、その反対に。私は、花の時さえ止められてしまう。正確には、成長を限りなく遅れさせられる。一秒を一分に。一分を一時間に。重ねて、重ねて、重ねて――この木の時を、すっかりと止めました。だから、ずっと咲いている。枯れる事も知らない。伸びゆく事も知らない。私の字の由来の花です。季節に逆らい、時に逆らい、咲いています。(――季節を重んじる花屋から、どうしてその言葉がつらつらと出るのか。まさか、何も思わず話しているわけがない。それは一つの禁忌。大罪。だからこそ、背の高い木々に隠し、外から見られないように覆ってしまう。)   (11/22 16:27:19)
愁空/瑞希 > (風に揺れるのは周囲の木々のみ。太陽を惜しみなく浴びるも周囲の木々のみ。ただ、存在さえ罪だというように、路地裏に蹲る咎人のように、ひそやかに生きる。否。生きているともいえるのか、怪しい。それでもその木は、枝は、葉は、そして花は、瑞希の育てたどの花より美しく。人の罪深さを体現したかのようなハナミズキ。しかし罪はハナミズキには非ず、この花のような瑞希に在る。――父との思い出。止めてしまいたかった日々、引き留めてしまいたかったあの日。全てがこの花に添えられていた。)花言葉は『永続性』、『返礼』、『私の思いを受け取ってください』――そうですね、『私が貴方に関心がないとでもいうのですか?』との意味も添えられるそうです。――……人のエゴに塗れてしまったハナミズキですが、間違いなく、私の最高傑作です。花言葉も含め、贈り物には宜しいかと。(一通りの説明を終えたころ、彼女の喉は震えていた。恐怖。拒絶への恐怖と、糾弾されることへの恐怖。そして、自らの秘匿を明け渡したことへの恐怖。これをみて、他人はどう思うのかを、瑞希は初めて知る事となるのだ。)   (11/22 16:27:24)


黒助/花崗 > ――っ(絶句。少女の説明を聞き、その言葉を頭の中で反復させてもなお。頭の中に言葉が浮かばなかった。それは禁忌だ、そして大罪だ。一つの生物の理を、円環に戻るべき命をこの世界に縛り付けた。それは、人が行って良い業ではない。最早死刑ですら生ぬるい、生命の冒涜ともとれる行動だった――その言葉の、一つ一つに籠められた重さを。その単語を聞くたびに両肩に何かが乗るような気さえしてしまう。心の奥底からここに来なければ良かったと言葉が漏れ、少女への忌避感が競り上がってくる。今、多くの木々に覆われ、太陽の光すら届かぬ場所でひっそりと止まるハナミズキは、見ているだけでその心の奥底までを見通しているようだった)   (11/22 16:47:40)
黒助/花崗 > …瑞希ちゃん。どの枝が良いの?私からしたら、全部同じように見えて分からないのよね(喉が震え、言葉が怯えを漏らしそうになる。心が黒く染まり、今すぐこの場から逃げ出せと叫ぶ。反対に、頭の中は真っ白になって、何も考えずに本能で動けと諭してくる。この木は、見ているものの精神を犯す狂気だった――故に、一歩を踏み出した。踏み出して、震える喉を気迫をもって止め。黒白に染まった心と頭を気力を振り絞って普段のものへと戻していく。怖いものは怖い、それは人にとって当然のことだ。だが、それで引き下がっては――逃げてしまえば、それは自分自身の今までを否定することになる。もしここで逃げてしまえば、あらゆる恐怖に押し潰されそうな一人の少女を見捨てることになる。それだけは、絶対に嫌だった)   (11/22 16:47:44)
黒助/花崗 > (だから、だからこそ。彼女はその一歩を踏み出し、少女へと問い掛けた。己は君を見捨てないよと、自分も一緒に居続けるよと。あらゆる恐怖に潰されそうな少女を支え、その罪と罰を共に背負うと背中で語るように。腰の後ろに差した逆手持ちの刀を一本引き抜き、少女が指定する枝をそれで切り落とすという意思を示した)   (11/22 16:47:47)


愁空/瑞希 > そうですね。同じかもしれません。生まれた時から変わらない、時間さえないのですから。人は、年を重ねて個性を為す。花も同じく、芽吹き、風に触れ、陽を浴びて――。一つ風に揺れ、いっぱいに温かさに触れて。そうして、形を変えたりするもの。(淡々と。図鑑を読み上げているように。もしくは、博物館の展示物を解説するように。何も抱くことはないというような言葉の紡ぎ方。瑞希は花屋だ。花売りだ。花の価値を誰よりも知り、誰よりも重んじた女が、そこまで理解していながらもハナミズキを咲かせ続ける。一年も。魔術をかけ続けたひととせ。幾重に積もる筈だった時間を、一言で止めた。目の前のハナミズキは、あまりにも美しかった。まるで人が描いたように、枝葉の伸びに偏りもなく。左右対称に、どこにも同じように同じ花を付ける。人が作った造形物。自然のものでありながら、人工の花。喉奥が吊り上がり、締め付けられる。)   (11/22 17:05:15)
愁空/瑞希 > (まるで、懺悔室で罪を一つ一つ告白するように。それの何が罪かを解っていながらも、辞める事をしない。それは、今を限りなく懸命に生きていながらも、過去の執着を捨てられない彼女の証。罪の権化。相手の言葉に黒が滲む。美しかった湖畔が毒に侵され、木々が枯れ、動物たちが死にゆくような――絶望さえ感じてしまうような程の恐怖が、自身の心の内に染み込む。嗚呼。矢張り、これは恐ろしいのか。こんなにも美しくても、私が恐ろしいものにしたのだ。私が、バケモノにしたのだ。人の罪、人のエゴ、全てを集約したコレをバケモノとするなら、彼女の感じる恐怖も当然だ。それなのに、一歩。寄り添うような言葉と共に、歩みを寄せられた。その一歩が、瑞希にとって、この大罪にとって、どれだけ救われたことか。その刀の煌めき、その切っ先に、自らが貫かれてしまいたい。そう思った。だからこそ、選んだ一枝。)   (11/22 17:05:22)
愁空/瑞希 > ――これなんて、如何です? どれもこれも同じように咲いているのに、この一輪――この一枝に宿る花々は、どれも大きくて、色が鮮やかですね。……まるで、生まれ持った才能があるように。(指先で指し示した枝は、比較的低い場所、その切っ先で簡単に切ってしまえる位置にあった。些細な違いではあったものの、確かに他の枝より太く、その花も美しい。生まれもって、神に愛されたように。瑞希が生まれ、両親に愛され、生まれ持って、共感覚という特異な才能を得ていたように。その一枝が切り落とされるという事は、彼女の映しが切り落とされるということ。いや。そも、このハナミズキは瑞希の字、その由来。この木に一つでも傷が付けられようものならば、彼女も傷つけられるという事に等しい。それを花崗の刀、その一太刀に許した。自らの一つを、殺してくれと云うように。その表情は髪に隠れ、よくは見えないが。風にそよぎ、合間から覗いた表情は――恐ろしいほどに美しい、笑顔だった。)   (11/22 17:05:29)


黒助/花崗 > ――分かった(分かった。これ以上の言葉も、行動も必要なかった。あれが良いとこの少女が言うのであれば。花に関して嘘偽りを言わない彼女が言うのなら、その枝の、その花こそが美しいのだろう。故に少女の指し示した枝へと近付き、腰を軽く捻るように構え――斬ッ、と。鋭くも、芯の通った音が静寂の中に響けば。高く高く、ハナミズキよりも高く斬り飛ばされた枝が、円を描きながら宙を泳いでいた)   (11/22 17:39:18)
黒助/花崗 > …瑞希ちゃん。今日はありがとう。凄く楽しかったわ。貴女と話が出来て良かった…(くるり、くるりと円描き。ゆっくりと落ちてきた枝を刀を握った手とは反対の手で掴み取る。まるで曲芸のような動きのそれは、何度も何度も繰り返された動きであることが少女にも伝わるだろう。現に、彼女が握る枝の切れ目は美しいほどに綺麗で、添え木をして元に戻せばくっついてしまいそうなほどだった――その枝を片手に。握った刀を鞘へと戻しながら、少女へと振り替える。そこにいる、恐ろしいと感じるほどに美しい笑顔を浮かべる少女に。その心の奥底に、彼女よりも深く昏い思いをもつ少女へと近づきながら、感謝の言葉を投げ掛けた)   (11/22 17:39:20)
黒助/花崗 > ――だから、これはそのお礼と。会いに来るのが今日まで延びた謝罪よ。受け取ってくれると、凄く嬉しいわ(礼、それと謝罪。そう言いながら彼女は、孤独だった少女の前で膝を着く。そして、その手で切り落とした、最も鮮やかだと言われた枝を両手で差し出した――元気にしたい子、最近であったばかりの子。そして、気にしている子。それは、今彼女の目の前にいる少女のことだ。仕事部屋に飾る花を求めていた時に出会い、一人で花屋を経営していると聞いて気にし、それが寂しいかもしれないから元気付けてあげたかった。故に、彼女に気付かれないように、彼女自身に何が良いのかを聞いたのだ――人にプレゼントをしたことはあれど、こうして本人に聞くことははじめてだった。故にこそ、今彼女の心は酷く緊張していた。これで受け取ってもらえなければ?寧ろ落ち込んでしまったら?そんな不安が、彼女の心を埋め尽くしていて。この少女が気がついているかもしれない、という考えには至っていなかった)   (11/22 17:39:22)


愁空/瑞希 > ――嗚呼。(私が、死んだ。いいえ。時間が動き出したのかもしれない。切り落とされた一枝は、ひらりひらりと舞い落ちる。重力に従い、やっと時を感じながら彼女の手の中に納まった。一刀。たったその一刀で、彼女が『ただの素敵な軍の方』ではないと悟る。剣筋は決して歪まず、逸れず。迷わずに空気を裂き、枝を薙いだ。冷たい刃が鞘に戻された、軽やかな音を横に聞く。瑞希はその間、ずっとハナミズキを見上げていた。――この木が、この花が。いつか枯れたら、それこそ私は"瑞希"ではなく、ほんとうの名前を名乗れるのかしら。新しく、本当の意味で生きられるのかしら。ハナミズキの切り口から、涙のように滴る樹液を見ては、『おめでとう』と心の中で言葉を贈る。ほんの少し、時間が流れたハナミズキ。一つの出会いが、あの木に変化をもたらした。この一年、春夏秋冬。何一つ変わることがなかった木が、左右対称ではなくなった。これは、遠回しな自殺。比喩的な、儀式的な自分殺し。だからといって、今すぐに彼女が変わるわけではないけれど)   (11/22 18:03:48)
愁空/瑞希 > ――花崗、さん……(動き出した時の中で、彼女の背を押し、しかして寄り添った素敵な女性の――花崗の名前を口にする。過去の象徴、ハナミズキから、新たな出会いの象徴、花崗へ目を移した。その表情からは笑顔が失せ、しかし、やっと人間らしいともいえる表情を見せた。幼い子供が自分の感情に戸惑うような、自分の思い通りにいかなかったときのような、稚拙な表情。花売りとしては絶対に見せない、少女瑞希の表情。――その名前には聞き覚えがあった。尊華の大将。鬼神が如く強さを誇り、しかして女性の美しさをその身に宿す尊華の花。やっと聞いた名前が、馴染みのある名前と知ったその時、驚きが一粒、喜びが一粒、入り混じる。その大将が、尊華の要が、この少女のエゴと大罪を同じく背負って、斬り伏せて、今、目の前に跪く。それがどれだけ、とてつもない事なのかと。少女は思い、しかし、想う。自分を想ってやってくれたことと、最初からわかっていた。それならば、自分が願い、乞うた事を総て返してくれたこの女性に告げるべき言葉は一つ。たった一言で、よかった。)   (11/22 18:04:00)
愁空/瑞希 > …………ありがとう……っ(目の前で斬られた己の映し身を、大切な自分を、受け入れる。差し出された花枝を受け取り、大切そうに抱きしめる。あの花に、木に、傷をつけることがどれだけ彼女にとって恐ろしい事だったろう。一瞬でも他人の元へ渡ることの、どれだけ不安な事だったろう。恙なく自分の下に帰ってきた己の欠片を抱いたまま、幼かった自分の破片を殺した自分と、共犯者へ感情を向けた。――いつか、このハナミズキが枯れるその日が来るのは、遥か遠い日となるだろう。しかしてこの枝を抱き生きて、枯らすこと。それはもしかしたら、近い日になるのかもしれない。やっと時間の呪縛から解放された枝は、気のせいか、時間の流れを喜び、謳歌し、いずれ来る終わりを心待ちにしているようで。――枯れるまでその枝を愛そうと誓った花売り、瑞希の表情も晴れやかに。秒針がたった一目盛、動いた。ここからまた、瑞希は変わる。生きる。流れる時間の中を、精いっぱいに。)__〆『一輪散って、二輪咲く』   (11/22 18:04:06)