この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

ソウ

茜差す君

ゆう。/ソウ > 天から降り注いだ雨は大木の葉と地を濡らし、何処からともなくやってきた烈しい風は濡れた大木の幹を揺らす…1時間前までそんな景色が見えていたはずが、今では雲が引き、朱色の陽が遥か地平線の向こうへと姿を隠そうとしている。その反対を振り向けばまだ薄い月が姿を現し旅人の目に映り込むまるで追いかけっこをしているかのように__。沈もうとする陽はこの空間、空気を橙色に、雨で水色に染まっていた紫陽花が今度は陽の色に、先まで広がる分厚い雲は茜色に色付ける。この街は、燃えているようだった__   (10/10 00:24:39)


ゆう。/ソウ > ふぅ。(屋上に上がり、柵に手を添え、柵越しに燃える街を眺める。夕陽は放射状に茜色の光を放っていて、其の光にソウは優しく包み込まれてしまい何も動けなくなってしまった。瞼を優しく閉じ口をぎゅっと締め、心の奥深くで、今まで堪えてきた烈しい力が火山の噴火のように込み上げてくる気持ちを感じる一方で触ったらすぐ切れてしまいそうな細いある種の寂しさ。まるで祭りの終わり…手には風船を持っていながら興奮から覚めた虚脱感や寂しさを感じた子供のような気持ちが沸々と込み上げてくる___   (10/12 01:15:07)
ゆう。/ソウ > 床に置いてあるスキットルを持ちあげる。前まで自分の前に持ってくると彫りが深く目が細い人間がこのスキットルに写っていたが今では肌身離さずいろんな所に持っていく為凹みができたり砂などが付くたりするものである。今日はまた夕陽の茜の線を反射し、少し橙がかっている。蓋を細長い人差し指と親指で開け流れるように喉に流し込む。スキットルには度数の高い蒸留酒が入っている。酒には強いソウは1時間に一回は立ち止まり上を向いてから目を閉じてそれを喉に流し込み、湿らせる。そんな自分に少しだけ酔ひしれる。そんな繰り返しである。空になったスキットルを茶色いジャケットの内ポケットに忍ばせ、また1分ほど燃える街を見てから急に巻きタバコが吸いたくなってくる。)かったいパンも買ってくるか。(階段を降りて彼は自身が燃える街の一部になる。   (10/12 01:15:25)


ゆう。/ソウ > 屋上から湿っていて明るくも奥行きがある黄緑色をした苔が少し生えてしまっていた硬い階段を一歩一歩柔らかく踏みしめ外へ出ていった。外を出ると、植物から、人間、建物、全てが茜色に染まっていて少し新鮮と言おうか不気味というか。はたまた美しいと表現できるか…そんな景色を彼の瞳に写した。少し肌寒く、身震いをしながら煙草屋へ向かった。その途中で何の鳥だろうか。大きい翼を懸命にはためかせこの世界と抜け出そうとしているかのように、赤い空の上に、上に、昇っている鳥を見た。歩いているうちにだんだん怪しい匂いと所謂、警察が規制するような薬の匂いが入り混じったようなかほりがソウの嗅球を刺激する“裏路地”へ入った。さっきまで茜色だった街は違法建築であろう建物の集合で広い空は見えなくなってきた。彼が上を見上げれば其処は誰かの床…寝床である。ただ鉄板を重ねただけ。そんな建物がこれでもかと密集し、心無しか来る人々の意識と呼吸を苦しくさせる。   (10/15 00:10:09)
ゆう。/ソウ > しばらく進むと、煙草と書かれた幟が立っている布と鉄骨でできただけの屋台のような場所に着く。中を覗くと、中は様々な本や、タバコの空き箱などが崩れ落ちていて、足の踏み場はない。)良くこんなところで商売できるね。おっちゃん。(店主である老夫は今にも壊れそうな椅子に全体重を預け座り、いつも通りボロボロになったジーンズを脛まで上げ、少し茶色がかったシャツを着ていて、其れからはどぎつい酒の匂いがぷんぷんとしていた。ぽっこりと出たお腹は彼の運動不足と不健康を想像させる。彼の体と比べるとずいぶん大きい新聞を読んでいた彼はこちらを少し覗くと新聞を畳見始め、まん丸な顔にまん丸なメガネを少しずらして掛けている眼鏡を覗かせた。   (10/15 00:10:28)
ゆう。/ソウ > そのままゆっくりと此方に体を向けて、平べったく厚い唇を開く。「おう…久しぶりだな。ソウ。今日は何だ。」目を閉じながらまた新しい煙草を素早い動作、手慣れた手つきで取る。そのまま唇に咥えて少し口角を上げる。)葉巻。ある?(ソウは老夫が吸っているのは彼が苦手とする煙草の匂いだった為、煙を吸わないようになるべく素早く、簡単に伝える。すると、「悪いな、あれはあいにく切らしちまってんだ。」と言われた為、ソウは財布を取り出し残りのお金を数えてから、何銭かを老夫の胸ポケットに入れる。)紙でいい。スターワイルド。三箱で。(老夫は胸に入った紙幣を子供のようになでてからソウに不敵な笑顔を見せて、重たい体を持ち上げのそのそと動き出した。何秒か待てば、彼は黄色い箱を三箱持ってくる。ソウは軽く会釈をし、その場を離れた。老夫が寝始めたの横目に。)よし。パン。買いに行くか。(ボソッといってから、裏路地を抜けると見慣れた茜色の空が彼を出迎えた。目の前ではパチンコを持った少年が笑顔で母さん母さんなんて叫びながら嬉しそうに彼の目の前を駆けていった。右手には胸に濃い血の色が滲んだ鳥の首を掴んでいた。死んでいた。夢は絶たれた。   (10/15 00:10:47)


ゆう。/ソウ > 先の妖しい裏路地から離れ、しっかりと放射状の夕陽の光が当たる街の中心部まで来る。煉瓦で出来た建物に陽が当たり、暗く寂しい影に錆びた鳶色を見せる。周りを見渡せば、直ぐにでも潰れそうな小さくて真っ白い子供の手を、肌は焼け、筋肉がしっかりとついた大きな手で掴み、夕陽に向かっている父と子供の姿が映った。)家族…(立ち止まって細く鋭い目を閉じ、深呼吸をする。“気持ちが乱れた時はこれをしろ。”育て親である祖母からいつも言われた言葉だ。茜色に染まった街を歩く。夕陽は彼の二の腕の産毛を優しく撫で、橙色に変える。暫くすると、開店当初はカラフルであったであろうがもう廃れた赤と緑の壁で出来たパン屋に辿り着く。今では不気味なライオンの絵や、ワニが描いてあるガラス張りの戸を開くと豊かで香ばしく、奥深い焼き立てのパンがソウの嗅球を刺激して唾液を分泌させる。   (10/31 21:13:11)
ゆう。/ソウ > 店内には、学生、母と子、年寄り。その三人の姿が見えた。三人とも、綺麗な着こなしをしていたが、目は死んでいた。感情が見られなかった。意味もなく生きる。そんな様子であった。ソウはそんな状態に戸惑うことはせず、クシャクシャとなった紙袋に包まれた長いフランスパンを掴む。周りの人間を見過ごしてレジの前の列に並ぶ。目覚ましい発展である。三年前にはレジなんて置いていなかった筈であるが。レジの前に来ると、背の丸まった皺だらけのお婆さんが前にいた。手に持っていたのはそろばんであった。レジは使わないのだ。)レジ。使わないんですね。(そんなことを言うと彼女は何本かなくなった歯を見せるように「機械っちゅうもんはどぉにも信用できなくてね…まぁ年寄りだから。これで充分さ……しししししし」そういってそろばんをソウに見せた時彼には何となくこの店が細く長く続いている理由がわかった気がした。その後店を出て、また染まる街に足を歩める。   (10/31 21:13:29)
ゆう。/ソウ > 先ほど買ったフランスパンの先端を出し、齧ってみる。口の中の白い歯でフランスパンを齧ると、細やかだが紛れもない、パンの繊維の抵抗が感じられた。中々噛みきれず、顎に力を入れて噛み切ったが、中身は全く柔らかく、あったかく。何も暴れずに白いパンが口の中でじんわり溶ける。何かずっと昔から食べていたような、そんな感触を心に感じた。思わずその美味しさに、口角を上げてしまう__   (10/31 21:14:29)
ゆう。/ソウ > 周りの人々を見渡せば、手を繋ぎながら帰る親子。バックを抱え、急いで家路に着く女性。何かの紙をくしゃくしゃにして握り泣きながら彷徨う男。そんな今日のいつもが見えた。すると目の前に見慣れた聖フィニクス騎士団の制服を着た三十前半ぐらいの、顔が平べったく、眉が太い男が寂しそうに街角の壁にもたれかかっていた。すると急に先程の顔とは打って変わって、心の底から笑顔になり、真っ白い歯をにかっと見せた。前からはピンク色と白色のワンピースを着て風船を持った、5歳くらいの女の子がその男に走ってきて急に抱きついた。男はその子を持ち上げ、幾度か笑わせた。すると、「帰ろう。」と、2人が声を揃えて言う。そんな風景を夕陽が優しく全てを包み込み、色をつける。それを見てソウの先程まで乾き切っていた心が一気に潤い、何か熱い物が彼の心にぶつかり、泡立たせた。それは、「感動」であり、「喜び」であり、「憎しみ」でもあった。併しまだそんな感情が自分の中で生きている。ソウ気づいた時にはもう足を動かしていた。   (10/31 21:14:52)
ゆう。/ソウ > 先程まで橙色に染め、この街を優しく包み込んでいた夕陽はいつしか黄金を発するようになっていて、遠くの山々の山頂を超えてしまい、さらに遠くの山群を柔らかくも、しっかりと形を見せて黄金色に色づけていた。それをじっと見つめていると、自分の獰猛で、凶暴な血の中、真っ赤な、紅色の血の中、鋭く、無限の深みがある血の中に、柔らかくて、優しい陽の色がすぅっと入っていき、「恐怖」だとか「憎しみ」なんて物を、浄化していく心地よい気持ちを感じた。)世界が終わる時もこんな感じなんだろうな。(ふと呟く。   (10/31 21:15:27)