この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

由良&鴉

烏の葬式

マリア/由良 > (密偵として帝都に来て、どれくらいの時間が経っただろうか。依然収穫のないまま、祭りに出てみたり顔見知りが増えていったりするだけの自分の平和ボケした現状に、焦りを感じなければいけないとは思いつつも、ついこんな事を思ってしまう。『このまま、帝国の人間になってしまおうか──』なんて。今日も言い訳をするかのよう繁華街に足を運べば、当てどもなく情報を求めて彷徨うのだった。)「……ん?」(ふと、とある辻で足が止まる。そこは普段であれば客引き等が出張って賑わっているはずの一角だが、今日はなんだか人もまばらだ。数人いる町民の話声に耳を傾ければ、眉を顰めるような囁きで『不吉だな…』という一言が耳朶に触れた。)「……何か、死んでるのかしら。猫とか……。」   (9/8 21:18:13)
マリア/由良 > (近くへ寄ってみれば、そこには翼を交差するようにして畳んだまま、道に打ち捨てられた烏の死骸があった。『あぁ嫌だ、さっさと片付けて商売を再開しようぜ。』『流石は天下の栄郷だな、縁起を気にして客が近寄らねぇ。』そう言いながらも、遠巻きに眺めるだけでこよ烏を屠ってやろうと動き出すものは居なかった。ここは尊華だ。周りは尊華人だ。縁起を気にして、腹の下で探りあうようにして厄介事を押し付けあって。由良は尊華に憧れを抱いていたが、王国であればこんな事にはなっていないだろうと思うと胸がちくりと傷んでしまう。少し辺りを見回して、自分がするしかないと一歩踏み出しその死骸の近くで膝を折りしゃがみ込んだ。縁起を気にするのが尊華人であれば、万物に宿る神を信じるのもまた尊華人のはずだ。密偵としての自分の人格──〝花蓮〟ならば、きっとこうする。この子は神使かもしれないし、神ならば敬うのが尊華人だ。そう、そのはずだ。)   (9/8 21:18:24)


まる/鴉 > 「(繁華街、食品の買い出しに来た鴉は、行き交う人が塩でも舐めたような顔で歩いているのを横目に見た。心做しか、活気もまばらに見える。いつも以上に酷い耳鳴りに、顔に張り付く面をひと撫でした鴉は、訝しげに繁華街を歩み進む。見えてきたのは、道の中、1人で座り込む女性の姿だ。その女性を中心にひそひそと縁起だの不吉だの、ゆらゆら彷徨うそれに割って入るよう、彼女の後ろから、背伸びをして鳥の死骸を覗き込んだ。翼を折りたたんだ鳥の亡骸、地に落ちたそれを見た彼は、零すように呟く。) ──神に借りた命を、神に返上した。それだけだってのにまぁ、酷い言われようじゃねぇか。(低く、冷たく、篭った声。だが、慈悲のあるそれには、地に落ちた鳥への、どこか哀れみの色があった。のそ、と由良の隣へ座り込むと、ジッとその鳥を見つめている。)……でも、薄情な大人ばっかじゃなくて良かった。嬢ちゃん、あんたが弔ってくれるのか。(先着の由良へその細い目をやると、手袋をした手で自分の頭を搔いた。目元まで伸びた、強いウェーブのかかった髪が揺れ、口元には骸を模した面。どこか不気味な雰囲気のある彼は、彼女に問うた。)」   (9/8 22:09:20)


マリア/由良 > (茜が照らすからすのもとに、不意に影が落ちた。緩慢な動きで由良の隣へ腰を落とした人物を目にし、一瞬その浮世離れをした容姿にぎょっとする。けれども決して嫌悪感を抱く事がなかったのは、何か自分と似た匂いを感じたからだった。彼の顔を覆う面と、自分の顔を覆う化粧。それになんら差異は無いのだ。きっと、理由がある。)「……ええ。見て見ぬふりなどすればばちがあたるとは思わないのでしょうかね。 」(くす、と笑いあなたの目を覗きこむ。あなたに話しかけ居るようでありながら、その声は明らかに後ろに居る町民たちを非難していた。あなたと由良に遠回しに糾弾され、烏の引き取り先が見つかったらしい事で、町民たちはバツが悪そうにすごすごと引き返してゆく。)「弔いなんて大層なものはできませんけれど、やっぱり土に返してあげるのがいいかしら。……そういえば烏はあんなにも街中で見掛けるのに、亡骸を見るのはこれが初めてです。なんだか不思議……どうしてでしょう?雀や、目白が亡くなっているのは見掛けるけれど。」(ぽつりと疑問を零しながら、鞄からハンカチを取り出して烏にかけてやる。そのまま抱いてどこかへ連れて行こうと由良は手を伸ばした。)   (9/8 22:25:59)


まる/鴉 > 「烏はどうも忌み嫌われるらしい、悲しい事にな。(彼女の言葉に、ぽつりと零した。まるで、自身を嘲る様に。そしてゆっくりと立ち上がれば、退いていく人の群れを横目に、表情にどこか憂いを淀ませ、再び鴉は口を開いた。)どこでも、寝心地のいいところに埋めてやればいい。(なんて、曖昧な提案をした。そして、鴉は言葉を続ける。)烏は他の鳥と違って、死骸になった仲間を食って弔う。だから、街を歩いていても滅多に見る事は無い。こいつははぐれちまったんだろう、見送ってくれる奴がいなかっただけだ。(彼もまた鴉。そうなれば、この烏の見送りに付き添うべきだ。ハンカチに包まれるそれを見て、周りの人間があれだけ嫌がる死体だ、そんなものに情を抱いたとなれば、印象も良くはない。そんな彼女に、鴉は言葉をかける。)……あんた、優しいんだな。(なんて、柄にもないが。死を丁重に扱う彼女に、どこか心でも揺さぶられたのだろうか。」   (9/8 23:20:08)


マリア/由良 > 「……そうですね。……弔う?へぇ……烏は、葬式をするんですね。……知りませんでした。」(小さな死を目の当たりにして、どうにもしんみりしてしまう。風に靡く後れ毛を耳にかけて、もう一度烏のほうを見た。)「優しい、ですか……あなたも、そうなのでしょうね。」(なんとなく間が持たなくて、そんなことを言いながら由良はハンカチごと亡骸をそっと抱きかかえた。これが優しさかと聞かれたらなんだか肯定はしかねる。同情か、見捨てる度胸がないかと言ったところだが、そんなものを行きずりのあなたに聞かせても仕方がないのだろう。)「この子の墓を探します。」(ぺこりと会釈をし、そのまま行ってしまいそうな雰囲気であなたに告げた。くるりと踵を返し、街を背にして暗い方を見つめた。)   (9/8 23:34:34)


まる/鴉 > 「それが葬式なんて呼べるもんかは知らねぇ。俺が勝手にそう思ってるだけさ。(亡骸を拾い上げ、抱える彼女。会釈し、遠のいて行く彼女の後ろ姿に、そっと金色の面を撫でつけ呟いた。)……優しかねぇよ。そう見えただけだ。(風に吹かれて消えてしまいそうな声は、そのまま宙へ霧散した。ふと、面を外し髭の生えたその顔を晒せば、煙草を1本咥える。ジッ、と音を立てて火を灯すマッチ。そのまま煙草の先端を焼き、紫煙が彼の顔を隠してしまう。墓を探す彼女を見送っては、自分もまた、買い物を済ませて帰ろうと、繁華街を進んでいく。地に落ちた烏が、再び天に向かって飛べるよう願いながら。)」   (9/9 00:04:59)


『烏の葬式』