この世界では、
”言葉”が魔力を持っていた。

糸依&フギンムニン

鴉と少女と五万円

清瀬/糸依 > 「………あは。もしなくてもこれ…窮地、って奴じゃん」(焦燥を孕んだ笑い声に、愉快さなど含まれている筈もなく。時は夕暮れ、視界はおぼろげ、南瓜の空には鳥の影。市街外れの此処は、民家の明かりこそ疎らに確認できるものの、人の気配なんてものは更々感じられない。…“人”は、居ないのだ。地に擦り付けるような低い咆哮、毛を生やした手に鉤爪。所謂“異形”と呼ばれる彼らは…イモータルは、今まさに私の目の前にその姿形をお披露目にきてくれたようだ。全くもって嬉しくないし、見物料は私の命だなんてそんなのあんまりだ。生と理性に飢えた獣と唐突の対峙、さてどこぞの物語だろうか。私は主人公ではないのだから勝利フラグなど立つ筈もないのに。   (7/20 21:17:03)
清瀬/糸依 > じり、と右足を軸に靴で砂利道を削る。こんな状況だが、幸いにも武器はある……魔術だなんて贅沢なものではないが…そう、足元に幾らでもある。さて、彼らの急所は何処だろうか。既に生命活動を終えているとはいえ、痛覚が完全に遮断されているとも考えにくい。脳天か、顎か、鳩尾か腸か、それとも下腹部か。目線を合わせているものの、正直逸らせばいいのか威嚇すればいいのか死んだふりをすればいいのかも不明瞭。一貫した対応なんて存在するのだろうか。……端から見たら冷静に分析しているように見えるかもしれぬが、内心混乱の渦中である。そもそも分析ができたことろで、目標に命中しなければ意味がないのだから。六発中目標に届いたのは零、育ち盛りの健康男児も唖然とする結果である。)   (7/20 21:17:05)


山葵/フギンムニン > おい、異形野郎!!コッチだ!!(窮地に陥った彼女の耳をつんざくような轟音と強風。周りの鳥も驚き皆バタバタバタっ、と飛び去っていく。勿論異形も耳をピクピクさせ歯茎を剥き出しにし、食事を邪魔した者をキョロキョロと探す。…だがそれは見当たらずに、再度目の前の獲物へと歩みを寄せ……真上からの攻撃に、ぐわんと回る世界に混乱した様子で倒れ込んだ。) 「吹き荒ぶ神風、山靄より降りし大鴉。雲より高く舞い上がれ、朝嵐。人の道を外れた者の身体を刻め。二度と立ち上がれぬように腱を、二度と見れぬよう目を、二度と食わぬよう歯を。」(瞬間。風が吹き、異形の獣の身体はたちまちバラバラになる。切られたと言う事実に追いついていなかった身体は、数秒後にようやく鮮血を噴き出した。)……よし、埋めるか。(ぱんぱん、と手を叩き埃を払いながら、鴉の面の男はそう呟いた。)   (7/20 21:28:08)


清瀬/糸依 > 「―――っ!?」(じりじりと詰まる双方の距離。今にも飛びかからん異形の気迫に、過るのは末期。…嫌だ、いやだ。決して言の葉として紡がれることのない主張が何かを膨張させ、目頭が熱を帯びる。違う、私が死ぬのは此処じゃない。“近寄るな、この物の怪めが、魑魅魍魎が!”……その叫びは、ごうごうと轟く嵐の音に揉まれた。地から吹き上げる風と叩きつける風、二つが身を裂くようにして入り乱れ、辺りの枝葉や砂がこの辺りを中心にして円を描き吹き飛ぶ。ばたばたと騒がしく揺蕩うマント。目を腕で覆うその直前、“烏”が地に舞い降りた。焦点を泳がせ横転する異形に止めをさすべく。嘴から足先まで黒染めの影の鳥が闇から颯爽と現れるように、布の羽を翻して烏は宙で踊る。)   (7/20 22:09:26)
清瀬/糸依 > 「……は、あ。…えと、此度は有り難う御座いました。……此の物の怪、未だに死にたらずあるのですよね??」(気が付けば、あの異形は緋色の噴水をあげぶつ切りになっていた。聞こえたのは詠唱、辻斬りの正体は魔術で間違いないようだ。土の霞の中で砂埃を払う彼がやけに淡々としているのと、一瞬のうちに過ぎた事の情報の多さに呆気にとられるしかなかった。寝起きの頭のように散らかった髪を手櫛で梳かしながら、未だこの世にしがみつく肉塊を避け烏の側に寄る。こんなになってもなお人の喉笛を噛み千切ろうとするだなんて、番犬としては優秀だろうけれど。残念ながら足りないのは知性よりも本能を抑える理性、そもそもの基礎が死人である以上、何かに使役しようだなんて冒涜でしかないのだ。……肉体ではなく根性の腐った輩には気に入られそうだが。鮮血に混じる孵卵臭に口元を抑えながら、貴方が埋めようとするそれを指差しては「私も手伝います故」と目線を交わす努力を。)   (7/20 22:09:28)


山葵/フギンムニン > お、手伝ってくれんのか!助かるぜ。(鮮血のこびり付いたマントをくるんと翻し、その巨体が糸依を覆うように影を落とせば、手には麻布を巻き取ったもの。ほれ、と渡せば粗く編まれた麻がチクチクと刺さってこそばゆく。)ちょっとでもコイツが復活する速度を遅くしたいからな、肉をこれで丸めて紐で縛ってくれ。…汚れ仕事ですまんな(そう呟けば、何処からか取り出したシャベルをがすっ、と地面に突き刺し穴を掘る。力仕事とは言えども筋肉質な彼にはあまり応えていないようだ。暫くして1m程の深さの大きな穴を掘り終えれば、糸依の方へ向かい己も仕事を手伝う。流石に慣れた手付きで、作業はかなり素早く終わった。それを穴の中へと放り込んで…土を被せ、丁寧に穴を塞ぐ。ふぅと息を吐けば、くるりと糸依を見遣れば、まじまじと服装を見つめ…)……んじゃ、イモータル討伐代として5万な!(と明るい声色で、手を差し出してきたのだ。)   (7/20 23:03:50)


清瀬/糸依 > 「……いえ、これきしの営みなぞやすきこと」(手渡されたのは大きな麻布。麻という植物は強かに真っ直ぐと育つ。そのことから芯が強く育つように…と、とある地域でよく名前を付けられていたらしい。そんな小話を頭の片隅に、薄らな笑みを張り付ける。汚れ仕事、皮肉めいていて中々に素敵じゃないか。数々の命をこの手にかけてきた軍人からすれば、異形の肉片をかき集めることなどお手の物だ。袖のボタンを外し腕捲り。先程まで死の淵にいたことなどとうに忘れ、黙々と作業をこなしていく。ぐじゅ、とたつ音もどこか可愛らしいものだ。流石に肉塊を直に触るわけにはいかず、粗い麻を千切り手に巻き付ける。……なんせ、乾いた血は洗い落とすのが大変だもの。見知らぬ誰かと外れの地で、細切れの獣を土に埋める…とはかなり犯罪性の高い状況下だが、これも致し方ない。不思議とここまで不安も疑念もなかった。……土に還ってもじっとりと纏う悪寒、染み付くのは汚れではなく、匂い。)   (7/20 23:42:58)
清瀬/糸依 > 「…………あ」(思わぬ労働に荒くなる息を整えつつ、額の汗を拭う。視線を下げれば白地のマントに赤い斑点が付いていた。嗚呼、後でしっかりと洗わないとなぁ……なんて算段を立てていたのもつかの間。差し出された手と屈託のない声色に、“やらかした”と悟れど後悔先に立たず。すっかり失念していた、以前ならば念頭に置けた筈の可能性の筈なのに。…なんにせよ落ち度は此方にある。装飾のしゃらしゃらと揺れる巨体の彼に一瞥をくれながら、背を向けこっそりと懐から出したのは藤色の長財布。…不安は的中、中には五万だなんて大金は当然入っていない。傾けても小銭がかち、と高く鳴りころころと転がるだけだ。)「……僭越ながら、私には只今手持ちがないもので。しかして易々と帰しては貰えぬのが顛末……。他のかたにて支払うか、私と共に支払える場まで行くか。兎に角、此の場に留まるのは得策ではありませぬ」   (7/20 23:43:55)
清瀬/糸依 > (再び懐に財布を仕舞い込んでは、貴方に向き直り両の手を広げてみせる。南瓜色だった空は段々と群青に近づきつつある。ここからは人ならざるものの刻、私の真下に居る彼奴のようなものが来ないとも限らない。右手で二を作り、烏の眼前らしき所に持っていく。立場に見合わぬ物言いであるのはわかっているが、このまま人気のない所で屯するのは御免だ。)   (7/20 23:44:05)


山葵/フギンムニン > ん?おー、それもそうだな!俺の格好じゃちぃと獣を寄せ付けやすい。…そーだな、送るか?…あぁ、別途で料金を払え…何て言わないさ、俺もアンタも飛んで安全なとこまでひとっ飛び。どーよ?(両手を広げる彼女に促されるように空を仰ぐ。インクをぶちまけたような群青が広がる空の下、確かに長居は危険だろう。ばさり、と羽根の縫われた厚ぼったいマントを広げれば、そんな事を述べ小首を傾げる。一応これでも風の魔術師。機関車などと言う鉄の馬が走るようになる前から、配達なんかをやってきたもんだから、空を飛ぶ時の人の扱いなんかもお手の物。)   (7/20 23:57:23)
山葵/フギンムニン > いやはや……銭がねぇと来たもんだ。…ま、手伝ってくれただけでかなりありがたいもんだが、いやしかしどうしてものか…(わしわしと茶色い髪の毛を掻きながら、マスクの中でぶつぶつと呟く。一応彼にも人の情らしきものはあるらしい。こんな痛々しい程に可憐な女性から、果たして脅迫紛いな事をして楽しいだろうか?これまでも何回もおんなじ手口を使ってはきたが…それもこれも貴族らしいお偉いさん共からだ。庶民には手の出しづらい鉄の馬さえも乗り放題…いや、自分専用の物をこしらえられるような富豪共。だが今回は訳が違う。良心と欲望の狭間でメトロノームのように揺れ動く感情の彼は、あと一押しで折れそうなくらい脆い。)   (7/20 23:57:36)


清瀬/糸依 > 「嗚呼良かった、我ばかり暗き山に下ろさることはないようだ。…そうですね、あれのように土に還るのは御免。此処は御厚意に甘んずこととしましょうぞ」(ふわり。魔性をも司る踊り子のように、細部まで装飾をあしらい拘ったであろう貴方の服が揺れる。床や天井なんて仕切りのない、時限式で幕を帰る空という舞台ではよく映えるのだろう。仮面に隔てられ不気味な容姿とは裏腹に晴れやかな声色の彼の提案は、かなり私に利があるように思えた。ここでがめつく追加料金をせびらないところを見ると、先程の五万というのも私の見て呉れによるものだろう。金の編み糸、コルセット、きらびやかな装飾こそ少ないものの貧乏人の着こなすものではない、なんて所だろうか? 言ってしまえば確かに、黙っていれば格好だけならばどこぞの令嬢に見えなくもない。淑女の化けの皮を被った軍人、なんてありきたりな設定、小説としては売れ行きの伸びの渋さに作家は頭を抱えるだろう。これが私の一張羅とも知らぬ様子だから、彼の人を見定める能力は中の下と言ったところだろう。少し皮肉を交えても、しっかりと要望さえすれば通してくれる性格とみた。   (7/21 17:18:58)
清瀬/糸依 > くつ、と笑えば山風が横切った。針葉樹がざわざわと囁き、叢雲は茜や菫に染まっている。もう暮れは近い。)「……。一つ、物申しますと。銀行まで着き行きて給ふというのなら、予定通りの五万、しかと払ってみせますが。如何致しましょう?」(選択肢は二つに一つ。彼を街まで引き連れるか、ここで恥を忍ぶかだった。口振りからして善意と利益の天秤はまだ接戦。どちらに文鎮を置いてやるか、その全ては私に委ねられている。言動から推測するにこれは演技でも何でもない本心。…五万をとるか、一時の恥をとるか。ここで私のポリシーが目を覚ます。何をやってるんだ糸依、誰かにおべっかを使うなんて。恥さらしもいいところ、一時の利益に流され己を裏切るのか? …さて、他人の目にはこの決断は浅ましく写るのであろう。それがどうした。人の表裏を忌み嫌う私として後者は矛盾、禁忌択。誰かの記す記憶という名の書記に私が残るのであれば、その一片にすら欠点を録してはならないのだ。砂を含んでしまったのか、一案を提議する口がとても苦い。)   (7/21 17:19:10)


山葵/フギンムニン > おう!任せとけ!こー見えても昔は配達屋だったんだ、運ぶのはお手の物だぜ。(ふふん、と鼻を鳴らし意気揚々と胸を張ると、此方を見つめる彼女にまた首を傾げる。文明が発達し、近代的な服装が多く目立つようになった昨今では、このようなエキゾチックな服装も物珍しいものとなっているのだろう。麻で出来たマントを靡かせ連動するように揺れる装飾は、今時伝統的な祭りでも中々見掛けない。)…本当か!?(ぱぁぁ、と周りに花でも飛んでいるのでは無いかと錯覚してしまう程に明るい声色と雰囲気。余程その言葉が嬉しかったようだ。其処で謙遜したり引いたりしない辺り、遠慮や恥なんかは全くもって無いようだが悪い人物でも無さげだ。)じゃあ、捕まってろよ?(ひょい、と彼女の身体をお姫様抱っこしたかと思えば、魔術をぶつぶつと詠唱し始める。その詠唱が終わったかと思えば、今度はまた別の魔術を唱え始める。)   (7/21 23:16:33)
山葵/フギンムニン > 「吹き荒ぶ神風、山靄より降りし大鴉。雲より高く舞い上がれ、朝嵐。色付く空を駆け、雲より高く舞い上がれ。」(刹那、再び耳をつんざく轟音が響く。フギンムニンと糸依の周りに風が集まり、マントが本物に羽のように広がり……地面を蹴り上げれば、空へ向かって一直線。どんな山よりも高く飛び上がり、一瞬で雲のすれすれまで。)…へへ、どーよ?(気圧で潰れたりしないのは、先ほど掛けた魔術のお陰だろう。そして、空から見下ろす景色は……今までに経験した事が無い程に広く、澄み渡っている。)   (7/21 23:16:35)


清瀬/糸依 > 「……ほう。それはそれは、期待しております故」(巨体のせいか年増に見えた彼だったが、検閲もなく提案を揚々と飲み込む様子は稚拙さを感じさせる。成りを潜めた太陽は泊まりの宿に彼を選んだようだ。……魔術、信仰。ついこの間まで身近にあり、手を伸ばさずとも傍らに置いておけたものが、今では遥か彼方にその存在を眩ませている。今まで意思すらしてこなかった当たり前が消え失せる感覚。丁度、とある文字を書くときに急にその形がわからなくなってしまう現象のように。私は今魔術の紡ぎ方を、信仰の注ぎ方を溝へ捨ててしまっている。劣等感もやるせなさ、憎悪と諦め、背反する二つはいつでも双となってやってくる。)「………へ?」(俄に彼は躊躇いもなく此方へとやってくる。暗く溶け込むような容姿とは逆に陽気さが浮き彫りになっている。どこか違和感を感じ、空想から我に帰ったその途端。)「ウソ……」(強制的な浮遊感、風に捲られる布、感覚の全てが揃い事を理解したのは、ラピスラズリの世界を見下ろした後のことだった。)   (7/23 17:08:55)
清瀬/糸依 > 「うそうそ嘘!?……ホンッット最悪っ、信じらんない!!離してっ、おろせおろせこの変態!ド変態!!馬鹿、バカラス!!ば……っっやばい落ちる落ちる!離すなアホ殺す気か!?!?」(体の中身だけが上へと置いていかれるような不快感。ついさっきまで地を踏んでいた足は宙へ放り出され、体幹は不安定なんてものでは表現できぬ程不規則に揺らぐ。初めて臨んだ空の旅、しかも一人ではなく赤の他人に抱えられての出発。ぞわ、と奔る悪寒。やはり男女ともあって体格の差はある程度あったのだが、こうも顕著に示せだなんて誰も言ってない。見えない顔を近づけろとか鼓動を共有しろとか望まれてない。何もこのタイミングで、ましてや男性にこんなことされるなんて。足を突っ張って右手で貴方の顔を遠くへ押しやる。辻と麻の轟音の影、夜の開幕にらしくなく言葉と声を荒くさせ必死の抵抗。そりゃあ当然体を無に放り投げる状態になる訳で、今度は背中を下から引っ張られる感覚に襲われる。慌てて貴方の胸ぐらにしがみつくように手を伸ばす。ここが遥か上空だということを再認識すればすっかり大人しくなってしまった。……可愛い鴉の子も、こんな騒音を聞かされちゃあ眠ることも出来まいて。)   (7/23 17:09:33)


山葵/フギンムニン > いでっ、いででっ!おい待て、暴れんなって!(離せと言ったり離すなと言ったり…この客はどうにも理解し難い言動を取る。顔を押しやられればぐいっ、と軌道がズレるが、何とか位置を調節し直しての繰り返し。)おいおい、悪かったってぇ…いきなり説明も無しに飛んだのは悪かったけどよぉ。…見ろよ、綺麗だろ?(オレンジトルマリンの太陽が地の果てに隠れて、空は次第にラピスラズリを撒く。風の音だけが世界を支配し…次第に辺りはどっぷりと黒に染まる。ぽつ、ぽつと辺りに明かりが灯っていき、空にも地にも星が光っている。上下が星空と化した夜の中、一羽の鴉と少女は駆ける。空を滑るが如く、猛烈な速度で抜けるその光景は、地上からすれば何が起きたか認識すら出来ないだろう。)あとちょっとで着くからな!(そんな明るい声が、夜に残響する。鴉と少女の空の旅はもう暫く続き…地に降りた後、またしても一悶着あったのは…言うまでも無いだろう。)【鴉と少女と5万円】   (7/24 01:37:51)